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【どうぶつの森】さくら珈琲

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9.雷と、それからピジョンミルク


 まぶしい。
 閃光の後、ローンがまだ約30万ベル残っている我が家が小刻みに揺れた。

「きゃあああああっ」

 まるでホラー映画にでも出てきそうな悲鳴をあげるバニラととまと。そして二人はガクガク震えながら、わたしにしがみついてきた。 
―――あ、暑苦しいんですけど……。
「ご、ごめんなさいっ」と、バニラ。
「だってぇ〜、さくらさん怖くないんですかぁ!?」と、とまと。

 怖い……とは思わない。この地域では、毎年夏に入る前に大きな雷が鳴る日が続く。何年もこの村に住んでいて、すっかり慣れてしまった。

「で、でも、天気は午後から良くなるみたいですから……もう少しがんばりましょう?」

 バニラがあまり頑張れそうもない声量で言った。とまとも小さくうなずく。

―――がんばるって、どうがんばるの?

 わたしは怖がっている二人に、ちょっと意地悪を言ってみる。

「そうですねぇ……」

 恐怖を紛らわせようということで、いくつかの「がんばる案」が出された。楽しいことを考える、夕飯の献立を考える、昨日見た夢を思い出す。しかし、すぐにその会議は終わった。
 今度の雷はそれなりに近くに落ちたようで、机の上のティーセットが小刻みに揺れた。

「き、きっとわたしたち、このまま雷に打たれて死んじゃうんですよ!!」

 バニラが今にも死にそうな形相で言う。そんな大げさな、と思うけど。

「えぇぇそんなのやだぁぁぁ」

 とまとなんてとっくに泣いている。

―――けっこう長くこの村にいるけど、そんな変死体見たことないね。

 励ますつもりで言ったんだけど、「じゃぁわたしたちが第一被害者に!?」と余計怖がらせてしまったようだ。
 二人の悲鳴は雷よりずっとずっと騒がしかった。
 ふと、わたしは子どもの頃の思い出が頭をよぎった。
 そういえば、わたしも小さいとき雷が苦手だった。
 とまとがわたしに苦手なものがあるなんて意外だと理由を尋ねてきたので、こう答えた。

―――本当におへそ盗られるって思ってた。ハ虫類なんかなりたくないもん。虫を食べて生きてくなんて、ちょっとなぁ……。

 そう話すとさっきまで怯えていた二人はどこへやら。これまた雷にも負けない大声で大爆笑を始めた。
 こんなに笑われると思わなかったので、わたしは少しすねた。

―――何、そんなにおかしい?
「いえ、小さな頃のさくらさんがとってもかわいいと思いまして、ふふっ。でも、おへそないのってハ虫類以外にもいますよね」

 とまとが「はいはいわかりまーす!」と手をあげて、自慢げに言った。

「本で読んだことありますぅ! ハ虫類、両生類、鳥類、魚類はみーんなおへそないんですよぉ!」
―――じゃあマスターもないんだね。ハトだし。
「確かに、でもいつもエプロンしてるから見えないですよね……」
―――じゃあピジョンミルクってどこから出してるの?

 わたしの問いに、二人は顔を見合わせる。「へ?」

―――ピジョンミルク。マスターが時々コーヒーに入れてる甘いミルクだよ。バニラ、物知りだから知ってるでしょ?

 急にバニラは顔を青ざめ、ごにょごにょ何か言った。しかし全く聞き取れないので、それが余計好奇心をかき立てた。

―――マスターいっつも企業秘密って言うんだもん。男の人だし、そもそも鳥だしどこからミルク出るの? ねぇ、教えてよ!
 
 バニラはさらに何かを言った。「そのう……」「戻し……」とかなんとか聞こえるけれど、いまいち意味がわからない。
 すると突然、彼女は「晴れましたよー!」と外に飛び出した。なんだそれは。タイミングが良すぎる。わたしも、とまともごまかされないよう、急いで彼女を追いかけた。

「ねぇ、バニラ教えてよぉっ!」
「し、知りません!」

 そうしてるうちに三人で追いかけっこになった。まあ、これはこれで、楽しいか。何日かぶりの青空だもんね。
 すると、向こうでマスターが大きな瓶を抱えて歩いているのが見え、わたしは一時鬼ごっこから抜け出ることにして、声をかけた。

―――マスターが外出してるなんて珍しいね。手伝おうか?
「クルックー。大丈夫です、ありがとうございます。実は上等なピジョンミルクを仕入れたんですよ、楽しみにしててくださいね」
―――へぇ、ピジョンミルクって絞るんだ、それって……。

 本人から聞こうとしたら、向こうからとまとの悲鳴が聞こえた。青ざめた顔のバニラは、観念したとばかりにうつむいていた。
 とうとうピジョンミルクの正体を暴けたと思い、わたしは二人に駆け寄りわくわくしながら尋ねる。しかしとまとはバニラより真っ白な顔をして首を横に振るだけだった。

「し、知らないですぅ」

 すでにマスターは博物館の方へ歩いていた。