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【どうぶつの森】さくら珈琲

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「さくらさん……!? ずいぶん戻ってこないと思ったら何をしてるんですか!?」

 フータさんが来たときにはこの部屋はレポートだの資料だの紙だらけ。壁のホワイトボードにはややこしい暗号や単語で埋め尽くされている。
 数時間前のわたしだったらちんぷんかんぷんだっただろうけど、今はちゃんと意味がわかる。自分が急に天文学者に近づいたのを誰かに自慢したいくらいだ。

―――空の勉強だよ。フーコちゃんの話がおもしろくってさ。
「や、やだ、ワタシったらつい興奮しちゃって」
―――いいから教えてよ。なんでマリーは星なのに真夜中見えないの?
「それはですね、太陽の内側を……」

 フータさんそっちのけで勉強を進めるわたしたちをみて、彼は浅くため息をついて、けれど満足そうに微笑んでいた。そして、下にコーヒーを取りに行ってくれた。


 一段落した頃には、とっぷり日が暮れていた。もらったコーヒーを飲みながら、ぼーっと窓から見える星を見つめた。
 かなり星の名前や形を覚えたけど、やっぱりここから見ると小さな点々にしか見えないや。でも、一つずつ名前があるんだ。あの星たちにはいろんなつながりがあって、いろんな物語があるんだ。

「マリーはですね、悲劇の星なんですよ」

 フーコちゃんが言った。

―――悲劇?
「マリーという美しい女性の神様が、身分の低い天使と恋に落ちたのです。
 嫉妬に狂った王様はマリーを夜空へと放ってしまったのです。」
――それはかわいそうだなぁ。
「相手のノースは激しく怒り、やがて彼も星にされてしまいました。ほら、あの星。ノース座は動かない星なんです。動けないから、いつまで経ってもマリーに近づけないのです。
 科学者は地軸の延長線がどうのっていうけれど、女の子だからそういうの信じてみたくなりませんか? なんて、学者らしくないですかね、ワタシ。」

 そういって彼女は夢見るように、輝くノース座を見つめる。あ、この子のこういうロマンチストなところ、バニラと仲良くなれそう。今度紹介してあげようかな。
 そう思った矢先、フーコちゃんはわたしの方に向き直って、照れたような笑顔を見せた。

「さくらさん、今日は久々のお客さんで、すごくうれしかったです。ありがとうございます。」

 お礼を言われてるのに、なんだか後ろめたくなってしまった。
 自分の意志で来たわけじゃない。フータさんに頼まれてなかったら、きっとわたしはここに来なかった。
 きっと、この部屋の存在さえ忘れていたはず。
 その後ろめたさをごまかすように、わたしはついこんなことを質問した。

―――フーコちゃんってさ、外出したりしないの?
「夜中によく散歩しますよ。肉眼で見る星も美しいですからね。望遠鏡には負けますけど。」

 世間話という風に、けれどどこか恥ずかしそうに続ける。

「元々人付き合いはあまり得意じゃないんですよ。この村に来て特に友だちらしい友だちも、ほとんどいませんしね」
―――じゃぁ、どうしてこの村に来たの? あ、いや、悪い意味とかじゃなくて……ごめん。

 つい、意地悪い質問になってしまうかもしれない、と後悔してすぐに謝ってしまった。

「いえいえ、いいんですよ。ワタシもお兄ちゃんも、ファーブル博物館の派遣でこの村に来ているので。一日中、この博物館にこもりきりですしね」

 仕事だから、それほど交友を期待して来たわけじゃないのかもしれない。
 寂しくても平気なのかもしれない。
 それでも、なんだか悲しくなった。
 親しくなった今、彼女が毎日めったに来ない来客を一人で待ち続ける姿をあまり想像したくなかったからだ。
 そんな空気を和ませるように、穏やかな口調でフーコちゃんは言い出した。

「ねぇさくらさん、自分の名前が付けられた星が空に浮かぶって、素敵なことだと思いませんか?」
―――え? そんなことしていいの?
「はい。あくまで村の中でしか認められませんけど、こうやって星をつないでいけば……」