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【どうぶつの森】さくら珈琲

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 博物館を出たとき、空が違って見えた。
 さっきまでただ夜に浮いているだけだった星の一つ一つの物語がわかる。輝きの強さや、どのくらいの距離が離れているかがわかる。
 そして、それは一つとして同じ輝きや、姿がないということ。
 今までこんなにまじめに空を見上げたことがあっただろうか。
 自分の作った星座を眺め、指でなぞってみる。そうしている間も、フーコちゃんのことを考えた。
 誰とも結びつかずに、一人であの場所にいるフーコちゃん。
 あの子から見える星はどのように映っているのだろう。

「さーくーら!」

 急に肩を叩かれて、思わず叫びそうになった。なんだか今日は、びっくりすることばかりだ。振り返ると、みしらぬネコさんが立っていた。

「手を上げて何してるの?」
―――び、びっくりした。もう、おどろかせないでよ。
「ごめんごめん。聞いたよ、星座を作ったんでしょ? どれか教えて!」

 どうしてこんな早くに知っているのだろうか。そんなわたしの疑問を読み取ったのか、彼は得意げな表情を浮かべ、大きな赤い瞳を細めて笑った。

「オレもたまーにあの部屋に行くんだよ。ねぇ、どれなの? 早く教えてよ!」

 わたしは指差しながら星座の形を伝えると、みしらぬネコさんはふむふむと頷いた。
 メモを取り出し、星の形を描いている。そこまで真剣に聞かれると、逆に恥ずかしくなってしまう。

「ふーん、あれが『さくら座』かぁー。でもさくらの花びらってより……ハート……キツネみたいだね」

 む。どんな連想だ。しかし、言われてみればそう見えなくもない。うん、確かにあれはキツネだ。キツネ座って名前にしとけばよかったかな。
 そんなこと考えてたらなんだかおかしくなってきた。つい噴き出してしまったわたしに、みしらぬネコさんも「でしょでしょ!」と笑った。

「じゃ、もう暗いし、偉大なる天文学者サマを送っていこうかな」
―――別にいいよ、そんなの。
「ダメ! 今日のオレは紳士な気分なの!」

 どんな気分の日なんだ。こんな平和な村に事件が起こることなんてほとんどない。ライトのように、星がこんなに明るいんだし。けれど、今日は彼の親切に甘えることにした。


 みしらぬネコさんと帰っている間、わたしはまだ空を見ていた。そうしながら、夏の夜の匂いを感じていた。
 頭の隅っこでフーコちゃんのことを、そして時々隣にいるみしらぬネコさんのことを考えながら。みしらぬネコさんも同じように夜空を眺めているけれど、さすがに何を考えているかまではわからない。すると、彼の方から口を開いた。

「フーコちゃんのことはさ、そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
―――えっ、どういう意味?

 どうやらわたしは無意識に嫌な顔をしていたみたいで、慌ててみしらぬネコさんは弁解をした。

「そんなコワイ顔しないでよ! いや、あの子は確かに交友関係狭いだろうけどさ、好きなことやってるんだし、毎日それなり楽しいと思うんだ」
―――別につまらなさそうとは思ってないけど……。
「星を語り合える友人は別として、無理して時間や気を遣う相手を求めるよりも、ずっと好きなことを研究していられるあの部屋のほうが彼女にとっては魅力的なんじゃないかな、って。」

 いわゆる、価値観の違い。わたしの考えを無理に押し付けて、勝手に哀れんでおせっかいを焼くな、と。そういう意味で言ってるんだ。
 けど、その通りだなって思う。だから、それが悲しい。
 返す言葉もなく、納得して黙っていると、彼はわたしの顔を覗き込みながら言った。いきなり顔が近づき、何故か自分の意思とは関係なく一瞬固くなってしまう。

「さくらのこと言ってたよ、フーコちゃん」

 みしらぬネコさんはとびっきりの笑顔で、言った。この笑顔を、今までどれくらいの人に見せてきたんだろう。……どうしてわたしは今、そんな考えが浮かんでしまうんだろう。

「うれしかったってさ。あんなに真剣に話を聞いてくれる人、最近の学会にもいないって。そういう人が一人いるだけでも、ずっと救いになってるんじゃない?」

 それはただのフォローなのかもしれないけど……笑ってくれた彼の顔を見れないくらいに、照れくさかった。
 どうしてこの人の言葉一つでこんなに悲しくなったり嬉しくなったりするんだろう。
 きっと、とまとに聞いたら当たり前みたいに「恋だから」で返されるんだろうけど。

「さくら!! あれ見て!!」

 見上げると星が一つ、尾を引いて流れていった。それはあまりにも速く、落ちていった。

「今の流れ星だよね!?」

 あれが流れ星なんだ。さっきまで落ち込んでいた胸が、今度は嬉しさと興奮でどきどきと鳴り始める。ずっとこの村に住んでいるけれど、初めて見た。

「すっごいなぁ! おどろきすぎて、願い事するの忘れちゃった! すごく大きかったね!」

 彼は子どものように「すごい」を繰り返しながら喜んだ。
 あ、そうか。流れ星見たら、願い事するものなんだよね。でも、いざ願いといわれてもすぐに思いつかないな。それでも、もう一度見たいなぁ。

「あはは、あんな短い時間に唱えられるくらいだったら、なんでも叶っちゃうね!」
―――何を願おうとしたの?
「オレ?」

 それは他愛のない世間話の延長のような、深い意図のない質問だったけれど。
 彼はすぐには何も答えてくれなくて。何かを考えるように。
 ただ、悲しそうな顔をして、笑って見せた。悲しそうなくせに、笑って見せた。

「なんだろうね、思いつかないや。あはははは!」