【どうぶつの森】さくら珈琲
「じゃぁ、ここでお別れだね」
―――ありがと、紳士さん。
「いえいえ。今日は朝までマスターに付き合ってもらおうかな」
―――それって……迷惑じゃない?
「へーきへーき!」
そのまま笑って去ろうとする彼に、わたしは迷ったけれど、声をかけた。
――みしらぬネコさん。
「ん?」
――あの……。
わたしは、思ったことを言うのが苦手だ。自分の気持ちをうまく言葉や表情で伝えることが、他の人よりずっとずっと下手だ。
だけれど、大切な友だちの彼に、これだけは伝えておきたかった。
――わたし、もっと……みしらぬネコさんと、仲良くなりたいと思う。
別に、星に願うほどじゃない。無理して話してほしいとも、思わない。
けれど、できれば、もう少し。この人のことが知れたらいいのに、と思う。
そうすれば、さっきの表情の意味もわかるのに。その悲しみに、触れられるのに。
それが今のわたしの、正直な気持ちだった。
「……オレも、同じ気持ちだよ。さくら」
彼はいつものようにひょうきんに笑ったり、茶化したりすることなく、同じように真面目に答えてくれた。
短いやりとりだったけれど、それだけで十分だった。わたし達はそれ以上言葉は交わさず、手を振って別れた。
わたしは彼の姿が見えなくなるまで見送ってから、とまとが起きないように静かにドアを、閉めた。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗