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【どうぶつの森】さくら珈琲

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 例年の時間通り、日が落ちてから花火大会は行われた。

「まだ……?」

 とまとの浴衣の着付けに待ちくたびれたヴィスは、呆れた声で言った。

―――ちょっと待って。今終わるから……はい、出来た。
「わーい! ねぇねぇ、ヴィスくん、似合う?」

 とまと色、というべきか。真っ赤な浴衣を着たとまとはいつもより大人っぽい。白い花模様が綺麗だ。
 わたしは、今年は紺色の浴衣を着た。去年まで着ていたピンク色の浴衣は少し子どもっぽく感じられるし、何より髪の色のせいで全身ピンク人間になってしまうし。
 すぐにとまとはヴィスくんの腕を引いて走り出す。ああ、もう、せっかく綺麗に着付けたんだから乱さないでよ。ま、楽しそうだからいいか。
 そしてわたしは一足遅れて、花火会場へと向かった。途中、リリアンに会うと、ピースがくれたバラのコサージュを帯につけていた。
 きっとピースはそれを見たら喜ぶんだろうな、気絶しないといいけど。と幸せな気持ちで、わたしは更に歩みを進める。
 会場に着くと、すでにみしらぬネコさんがいた。

「へい彼女! 良かったら一緒に花火デートでもしない?」
―――古いナンパだね。今どき引っかかる人いる?
「うわっ、手厳しいなぁ」

 そう笑いながら、浴衣が汚れないようにみしらぬネコさんがハンカチを敷いてくれたので、そこに座る。彼も隣に座った。……別に、一緒に見る約束してたわけじゃないけれど、まるで決まっていたことみたいにわたしたちは並んで座った。

「そういう浴衣の色、似合うね。いつもよりもっとキレイに見えるよ!」
――……どうも。

 あーあ。なんでこのネコは、そんなこっ恥ずかしいことを平気で口に出せるんだろう? 言われたこっちが顔を見れなくなる。ちょうど花火が打ち上げられたから、そっちに視線をうつせたのは幸いだった。
 赤や黄色や青や緑や紫、虹とはまた違ったカラフルな美しさを持つ花火が飛び交う。
 遅れて聞こえる大きな音や、火薬の匂いもまた風情がある。この村一番の、大きなイベントだ。

「やっぱりこの村の花火が一番キレイだ!」

 みしらぬネコさんがしみじみ言うので、わたしもうなずいた。
 花火のない星だけの夜空を、バニラはどこかで見ているのかな。
 わたしたちのことを、考えてくれているのかな。

「……さくら、泣いてるの?」

 みしらぬネコさんに心配そうに尋ねられて、初めて自分が泣いていることに気付いた。
 悲しいとか、辛いわけではない。ただ純粋に、バニラがいなくなった寂しさから溢れる涙だった。
 大丈夫だと伝えると、彼はそれ以上聞かなかった。うまく説明できる気がしなかったから、ありがたかった。
 そのまま二人、特に話すことなく花火を見つめる。
 綺麗だった。去年よりずっと綺麗に見えた。何故だろう。
 そして、なんだかどきどきしていた。何故だろう。
 フィナーレが近づいたときだった。

「さくらは、さ」

 みしらぬネコさんが口を開く。わたしは振り向く。

「がんばったと思うよ、ほんとに。偉そうなこといえないけどさ」

 空ではたくさんの花火が弾けていく。
 けれどわたしはそれを見れずに、ただうつむいている。顔が、熱い。わたしまで、花火になったみたいな気分だった。
 今日はなんだか、おかしいことばかり。
 アナウンスで村長さんの声が響いた。

『今年最後のラスト花火じゃぞ〜〜、しっかり目に焼き付けるように!』

「もしかしてこの花火って、村長が飛ばしてるのかもね! あははは!」

 みしらぬネコさんの冗談にもうまく笑えない。
 どうしたんだろ、わたし。どうして、こんなに……。
 ラストの花火は、とにかく大きくて派手でうるさくて、弾けまくる金色の巨大花火だった。


 そのときだった。


 うるさくて、眩しくて、とんでもない一瞬だったけど。
 彼の手が、わたしの手を握ったのだ。
 みしらぬネコさんが、わたしの手を、すばやく、浅く。
 思わず呼吸をするのも忘れた。彼の顔を見ても、まじめに花火を見つめるだけで、わたしの方には向けてくれなかった。
 火花が散ってぱらぱらと拍手が鳴る中、その手は握られたままだった。
 普段じっくり眺めたことのない、やわらかい肉球が手のひらに当たっている。爪は感じられないから、立てないように気を遣ってくれているのだろうか。

「今年もすごかったね!」

 わたしが真っ赤になっていることに気づいていないわけがないのに、何もないようにみしらぬネコさんは言った。
 ねぇ、なんで? なんで? なんでわたし達、手をつないでるの?
 けれどわたしは彼の顔を見るのが精いっぱいで、まさかそんなこと訊けるわけがなくて、いつもよりますますうまくしゃべることができない。

「それじゃ、そろそろマスターのところいこうかな。じゃあねー」
―――う、うん、バイバイ……。

 やっと、手が離された。
 やっと、呼吸ができた。吐く息は震えていた。
 全身が熱くなってしまった。特に握られた手は燃えるようだった。
 どうして、手をつないだの。
 どういう意味があったの。
 聞けば教えてくれるだろうか、笑って、いつもみたいに冗談だとでも言うだろうか。
 わたしは胸を押さえて、きつく目を閉じた。
 心臓が騒がしいくらいに、大きな音を立てていた。
 ああ、そうか。



 これが……恋なんだ。
 ずっと前から知らないふりをしていた気持ちを、今初めてわたしは、見つけた。