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【どうぶつの森】さくら珈琲

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 おかしい。
 おかしい。
 絶対おかしい。
 最初は冗談かと思ったけれど、彼はすっかり酔いがさめている。というわけでこれはさっきの店の中のことみたいな酔っ払いのたわごとではない。
「そうしよう、早速行こう!」とみしらぬネコさんはノリノリで歩き出している。
 そして、いきなりのことにも関わらず、とまとたちはずいぶんと寛大だった。

「みしらぬネコさんお泊りするんですかぁ!? どうぞどうぞ、ごゆっくりぃ!!」と、とまと。
「おーいいぞ、今支度するぜ!」と、リク。
「……わかった。」と、ヴィス。

 そう言うなりすぐに支度を済ませると、あっという間に家を出て行ってしまった。

―――ちょっと、とまとたちはどうするの!?
「あたしたちはだいじょうぶ! 二人でゆっくりしていってくださーい!」

 みしらぬネコさんは「いやー、良い子たちだね〜」としみじみ言っている。
 いや、よくないよくない!!



「悪いねー、お風呂まで借りちゃって!」

 今、彼はわたしの部屋にいる。
 とまとたちはとっくにいないというのに、わたしはまだ状況がつかめない。
 これは夢なのだろうか。夢だと思いたい。だって、あまりにも急展開すぎるよ。つい数時間前までは「ハトの巣」でのんびり過ごしていたっていうのに。

―――みしらぬネコさんは、いつもどこで寝泊りしてるの?

 せっかくの機会だし、日ごろから疑問だったことを思いきって尋ねてみた。

「んー、宿とかタクシーとか夜行列車とか! でもこういうお部屋が一番落ち着くなあ」

 わたしの訝しげな視線に気づいたのか、珍しく取り乱しながら続けた。

「いや、べ、別に人の家に泊まり歩いて過ごしているわけじゃないよ!? 親しい人だけだよ!」

 そうだ。別に深い意味はないのだろう。友だちとして泊まりに来てるだけ。
 それならわたしも、頑張って普通に接しよう。
 彼は友だちとして最高の存在だ。いつものようにおしゃべりをしたり、普段見ないような深夜のテレビ番組を見たり、トランプをしたり、ただ黙って空を見ていたり、何をしていても楽しかった。こうして夜は更けていく。一通り遊び疲れると、あくびをしながら彼は言った。

「結構良い時間だね。そろそろ寝よっか」

 それなら、お客さん用の寝室として普段使っていない部屋を案内しようとした。
 すると彼はポケットから葉っぱを取り出すと、その場に軽く投げた。その葉っぱは、たちまちみしらぬネコさんの服の模様と同じ赤黒チェックのシングルベッドに変わった。

「いやー、これほんと便利だよね!」

 あぁ、この部屋で寝るんですか。そうですか。


 電気を消すと、見えるのは窓から差す月の光だけになった。
 なんだか、黙っているとさっきよりさらに緊張する気がした。いくらベッドが離れてると言っても、同じ部屋にいる以上落ち着けるわけがなかった。
 必死に頭の中で羊を数え続けて、気を紛らわせようとした。ああ、どうしてこんなことになったんだっけ。
 気づけば羊のことも忘れて、頭の中に色々ぐるぐるいろんな考えが浮かぶ。
 とまとたちは今どうしてるのかな……とまとはレベッカ姉さんのところ、ヴィスはロボのところ、リクは多分……最近仲良くなったピースのところかなぁ? みんな、お邪魔してるんだから失礼なことしてないといいけど……。
 みしらぬネコさん、静かだな。もう寝ちゃったのかな。どうして、泊まりに来てくれたんだろう。ただ話し足りなかっただけ?
 多分、こんな風にどきどきしているのはわたしだけなんだろうな。そう考えると、少しだけ悲しいような、寂しい気持ちになった。
 たぶん、彼にとってわたしは、本当にただの友だちなんだろう。
 手をつないだことは、あれも……きっと、彼にとってはなんてことのない、気まぐれなのかもしれない。
 わたしが一人で勝手にネガティブな考えに陥って、やっとうとうとしだしたとき、暗闇にみしらぬネコさんの声が響く。

「さくら、もう寝ちゃった?」

 返事をしようと口を開いたが、彼が「寝たよね?」と念を押すように繰り返すので言葉が出なかった。どうやら、わたしに寝ていてほしいみたいだ。
 黙っていると、彼の乾いた笑いが聞こえる。

「ごめんね、オレ、めちゃくちゃ勝手なことしてるよね。
 起きてるときに言いたかった、というか聞いて欲しかったことなんだけど、やっぱり言えなかった。
 ごめんね、オレの自己満足だよね」

 彼は、何度もわたしに謝った。そんなに申し訳なさそうに言わなくてもいいのに……。
 わたしが寝ていると思った彼は、そのまま話し始めた。
 
「オレね、昔好きな子がいたんだ。」