【どうぶつの森】さくら珈琲
結果は、言うまでもない。ヴィスに釣れない魚はない。今回も、ヴィスはその巨大な黄金の魚を逃がさなかった。
ヴィスの手にかかれば、シーラカンスだってクジラだって、なんだって釣れるだろう。
胸元まであるドラドを抱え込むと、ヴィスはその場に倒れこんでしまった。
―――ヴィス!?
「釣った」
ヴィスは言った。今までで一番、喜びに満ちた声で。
「やりました、師匠」
それだけ言うと、そのまま眠ってしまった。
師匠って誰? と聞きたかったし、その魚をどうすればいいかわからなかったし、悪い風邪を予期するくしゃみと悪寒も出た。
それでも、ドラドは輝き続けていた。
ヴィスは三日間目を覚まさなかったらしい。
らしい、というのは、わたしも40度近い熱が出て一週間ほど寝込んでいたからだ。
ドラドを見せに行ったとまととリクが言うには、ホンマは「嘘つきめ、ドラドは夏の魚だ」と抗議してきたらしい。
しかし村のみんなが一斉に好き放題反論すると、捨て台詞を吐いて村から出て行ったそうな。
とりあえず、この村に再び平和がやってきてよかった。
そして、ヴィスもわたしもやっと元気になったとき、彼は改めてわたしやとまと、リクの顔を見て言った。
「本当に、ありがとう」
短い言葉だったけれど、しっかりとヴィスの気持ちは伝わった。
続けて、彼はとまとに冷たくしたことを謝罪した。
その誠意ある対応に、とまとはまさに野菜のトマトのように真っ赤になった。
そしてさらに続けて、ヴィスは照れくさそうに言う。
「……いいよね、家族って」
家族。わたしたちは思わず顔を見合わせる。
そうだ。わたしたちはいつの間にか、そういう関係になっていたんだ。
「っぷー! しかし、さくらが池に飛び込んだ意味、ほんとないよなー!」
リクが思い出したようにふき出した。とまともつられて笑う。
「ほんとほんと! お魚が逃げなかったのが不思議なくらいですぅ!」
―――ちょっと、何それ! 確かにわたしも意味ないことしたなって思ったけどさ……。
奇跡は、ある。
ヴィスが黄金の魚を釣ったように。
元は何の関係もなかったはずのわたしたちが、こうしてひとつ屋根の下で家族になったように。
わたしの大切な家族の一人のヴィスは、今、ドラドを釣ったときに負けないくらいの笑顔を見せてくれていた。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗