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【どうぶつの森】さくら珈琲

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 それからの彼の様子は、最初に述べた通り。すっかりブラックコーヒー依存症。

「マスター、おかわり」

 それも、いつもみたいに味わって飲むんじゃなくて、まるで水みたいにガブガブ飲んでいく。

「駄目です」

 マスターは控えめでありながらも厳しい口調で言った。
 みしらぬネコさんが騒いでも、それ以上カップを出すことはなかった。こんなに頑固なマスターも珍しい。
 諦めて机に突っ伏した彼は小さく呟いた。

「あの村が、夢に出ちゃうんだ。眠りたくないんだよ……」

 わたしは怖かった。変わってしまった彼も、サクラさんの存在も。
 時々、彼はわたしの名前を意味なく呼ぶ。けれど、それは誰を思って言っているんだろう。
 本当は、こう言いたかった。「そんなに気になるなら村に帰ってみたら」とか、「話し合ったほうがいいんじゃないかな」とか。
 前のわたしたちなら、思ったことは正直に伝えられる関係だった。でも、今はその勇気がない。
 言ったら、みしらぬネコさんがいなくなってしまうような気がした。
 マスターに相談するべきなんだろうけど、何しろみしらぬネコさんは一日中この「ハトの巣」に入り浸っているんだから出来るわけがない。

 ついに年を越そうとしている今日になっても、気分は沈んだままだった。


 サクラさんが毎日みしらぬネコさんに説得しに来ていることを知っていて、わたしはあえてその時間をずらして「ハトの巣」に行くようにしていた。
 だが今日は、外に出てきたサクラさんに出くわしてしまった。
 目を潤ませたまま、サクラさんはわたしに話しかけた。初めてのことだった。

「あなたも、さくらっていうの?」

 ああ、そうだ。それがなんだって言うの。名前が同じだから親しくしましょうとか言い出すつもりなんだろうか。
 サクラさんの服は、まるで異国のドレスのように美しく繊細に仕立てあげられていた。サイハテ村に住んでいたのが嘘みたいに。
 なんだか余計、この人がみしらぬネコさんを傷つけた人なんだという実感がわいてきた。これ以上、会わせたくない。みしらぬネコさんを傷つけたくない。
 何考えてるんだろ、わたし。サクラさんは本当に困っているかもしれないのに。
 だめだとわかっているのに、言葉は抑えられなかった。

―――今更、彼に何の用なんですか。

 自分の口調の刺々しさに驚く。サクラさんは、さっきよりもさらに傷ついた表情を見せた。それがわたしの心を痛める。これは演技だろうか。まさか。

「村がなくなってしまうのかもしれないの、彼は誤解していることがあって……。」
―――でも、もうみしらぬネコさんは関係ない。

「みしらぬネコさん」という言葉に、最初彼女は首をかしげ、やがてすぐに納得したようにうなずいた。
「ああ、本当の名前を知らないのね」と言っているように。それに、わたしは少なからずショックを感じた。
 もしかしたら、こんな境遇じゃなかったら、わたしはサクラさんを好きになれていたかもしれない。友だちになっていたかもしれない。
 だけれど今現実にいるのは、ただ勝手な思い込みと嫉妬心で狂っている醜い自分だけだ。だから、こんなにひどいことが言えるんだ。

―――もうみしらぬネコさんと会わないでください。彼の人生に、あなたは必要ありません。

 サクラさんは、何か言い返そうとした。しかしその瞬間、どこからか電子音が響いた。
「ちょっとごめんね」と彼女は携帯電話を取り出すと、そのまま走り去って行ってしまった。
……気にするものか。そう思おうとしたけれど、残されたわたしの心の中は自己嫌悪でいっぱいだった。
 どうすればいいんだろう、何が正しいんだろう。
 前までだったら、ちょっとした悩みも全部みしらぬネコさんやマスターに話せた。
 今は違う。今悩んでいるのは彼本人だ。どうしたら、彼を支えてあげられるの? 力になれるの? 
 みしらぬネコさんの誤解していることって何? それを聞かなくてもいいの?
 だけど、サクラさんは、きっとみしらぬネコさんを今でも好きなんだ。だからこそ、二人を会わせたくない。……でもそれは、わたしのエゴだ。本当に、それでいいのかな。

「さくらちゃん?」

 いきなり声をかけられたので、思わず飛び上がりそうになってしまった。覚悟をして振り返ると、それはリリアンだった。あの人じゃなくてよかった、なんて汚い考えがよぎる自分を心底嫌になった。
 リリアンはわたしの顔を見ると、慌てて駆け寄ってきて、わたしの額に手を当てた。

「どうしたの、風邪!? めちゃくちゃ顔色悪いじゃーん!」
―――そ、そうかな。

 わたしの欲望だけで、こんなことをして、本当にいいのかな。みしらぬネコさんも、このままでは絶対良くないのに……。

―――ねぇ、リリアン。
「ん?」
―――もしピースがすごく悩んでいたら、どうする……?

 リリアンは首をかしげる間もなく、即答した。

「そんなの、解決を手伝うに決まってるじゃん! 自分に出来る最大限のことでさ! それが恋人だもん」

 わたしに、出来る最大限のこと……。
 わたしはリリアンに礼を告げると、すぐに家に戻り、急いで荷物をまとめた。

「ど、どうしたんだよさくらぁ! 家出すんのかぁ!?」

 リクがびっくりして大声で尋ねる。

―――とまと、ヴィス、リク。しばらく家空けるから、自分たちでしっかりしてね。
「ええ!?」

 みんなが声をあわせて何事かと質問攻めをしてきたけれど、答える暇がなかった。
 わたしは役場へと走って行った。