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【どうぶつの森】さくら珈琲

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「起きるだよ、さくらちゃん」

 気づいたら、眠ってしまったらしい。
 半ば夢見心地で見渡した。

「悪ぃな。車はここから進入禁止なんだ。」

 まるで最果ての地のように、延々と続く荒野。
 わたしはタクシーから降りると、呆然とその光景を見つめていた。

「ほんとは勤務時間なんだが……付き合うべ?」
―――ううん、大丈夫。

 こんな場所に連れて来てくれた運転手さんにお礼を言い、もう一度見渡す。
 緑に囲まれた村で生活していたわたしにとって、この殺風景は衝撃的だった。
 まるで長い旅が始まったような気持ちで、覚悟をして歩き出した。



 足が痛くなってきた頃、やっと、はがれかけたサイハテ村の看板を見つけた。そこから先はいくつか砂色のテントが立っている。よく目を凝らさないと、背景と同化して見失ってしまいそうだ。
 向こうに村人らしき人たちがいるけれど、何かをこぞって運び出している。野外に寝転がって眠っている人もいる。
 しかし、果たしてこれが村と言えるのだろうか。毎年何千万ベルもの募金額を発表している村だと言えるのだろうか。
 大きなダンプカーが徘徊しているその場所は、「村」とは名ばかりだった。

「お嬢さん」

 振り返ると、しわしわの黒いゾウが立っていた。小さな黄色い目でこちらを見ている。

「こんなところにお嬢さん一人で……どうなされたのかな」

 わたしはとっさに思いついた言葉を言った。

―――ちょ、ちょっと観光に。

「まさか」と黒いゾウは神経質そうに笑った。
 このゾウは自分を村長だと言った。そして、自分の小さな砂色のテントにわたしを案内してくれた。
 テントの中は狭くてほとんど最低限の生活用具しかなかった。村長さんもそれを恥入っているようだった。

「さて、お嬢さん、名はなんだったかな」
―――さくらといいます。

「さくら。」

 村長さんは目を見開いた。誰を思い浮かべて驚いているかはすぐにわかった。だから余計居心地が悪くなる。

「そうか。実は昔、この村にもさくらさんと同じ名前の女の子がいたんだよ」
―――そうなんですか?
「いやいや実に、不思議な縁だなあ」

 縁も何も、彼女がきっかけでここに来たというわけだけど、わたしはそのことを言わなかった。

「ところでさくらさん、本当に観光に?」

 少し迷ったが、わたしはうなずいた。事情を話すとややこしくなりそうだった。わたしは、この村の歴史について聞きたいのだと言った。
 久しぶりの客ということで、村長さんはわたしを快くもてなしてくれた。

「こんなつまらない村の話を聞きたいとは、さくらさんは物好きだなあ」
―――そうですかね……。
「さっき見たとおりがこの村の状況だ。もう少し先には、当分完成しそうにないテーマパークがあるが、それ以外はテントと、無理な労働にやつれた住民たちだけ。
 それがこのサイハテ村なんだよ。」
―――どうしてこうなってしまったんですか。

 村長さんは悲しそうに目を伏せた。

「それを説明するには、君と同じ名前の女の子の話をしないといけないね」

 わたしは、思わず姿勢を正した。この話を聞くために、わざわざこの村に来たんだ。

「元々サイハテ村は貧しい村だった。子どもと年寄りと悪い大人だけの村でね。
 毎日が労働労働。たかがパン一つのために、みんな血眼で働いた。
 そんな生活に耐えられずに逃げ出す者ももちろんいたよ。ごく少数だがね……。こんな場所にある村だ、ほとんどが逃げきれずに……わかるだろう?
 だけど、サクラだけはうまく逃げだした。それどころか、『彼』を連れてきてくれたんだ」

 わたしは熱心にうなずいて、続きを促した。

「彼は、ノラを連れてきてくれたんだ」
―――ノラ?

「旅をしているという、青いネコだ。もちろんそれが本名じゃないことくらいすぐわかった。
 本当の名前などない、と言うんだ。だから、サクラはノラと呼んでいたらしい。
 とにかくノラは行動力があるうえに、すごく頭の良いネコだったんだ。長い時間をかけて、村の復興に力を入れてくれた」

 そのノラがみしらぬネコさんであることはすぐにわかった。
 みしらぬネコさんは、ここでノラと言う新しい名前を得たんだ。
 そして、そこからの話は、わたしの予想していなかった展開だった。

「一時は建て直した……ように、見えた。彼は大人の恐ろしさをわかっていなかったんだ。
 大人たちがノラの隙をついて村を奪い壊そうとしたこと……それにいち早く気づいて戦ったのがサクラだったんだ」

 とある富豪が、美しい彼女にこう言ったのだ。
『俺の妻になれば村を救ってやろう』と。

「サクラはその事情をみんなには内緒で、村を去っていった。私にだけ教えてくれたんだ。
 みんな、彼女を裏切り者だと憎んだ。
 しかし、一番裏切られたのはサクラだろうな。助けられたどころか、その夫となった男にこの村を買収されたんだから。
 村もすっかり意気消沈して、抗う気もおきなかった。
 私は、せめてノラに真実を告げようと思ったが、その前に彼はどこかへと消えていってしまった。この村を諦めてしまったんだろうね。
 今サイハテ村は潰されようとしている。馬鹿げたテーマパークやゴミ捨て場のために……しかし、自業自得だとも言えないかね。
 自分の力では何もせず、よその者に頼り続けた結果だと思わないかね」

 ここまで一気にまくしたてた村長さんは激しく咳き込んだ。わたしは慌てて彼の背中をさすった。

「もう終わりだ。何もかも……ここが完全に潰されたら、この村の住民はどうなるんだ……」

 途切れ途切れの息で、村長さんはそう言った。
 わたしは、全部嘘だったら、夢だったらいいのに。そう願った。
 真実がこんなにも残酷だなんて、知らなかった。