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【どうぶつの森】さくら珈琲

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37.気づいたこと、気づけなかったこと


 どれくらいそうしていたのだろう。
 急に視界が暗くなった。柔らかい布の感触に、毛布をかけられたのだと遅れて気づいた。
 顔を出すと、そこに立っていたのはヴィスだった。

「何してるんだよ」

 ヴィスはぶっきらぼうに言うと、わたしの肩に降り積もった雪を振り払った。ほんとだ、何してたんだろう、わたし。
 そしてわたしの隣に座り込む。わたしも気づけば座っていた。
 目の前には、まだ雪にかき消されてない彼の足跡があった。でも、これもいつか消える。何事も、なかったみたいに。
 そう思うと、また涙が溢れてきた。
 何してるんだろうね、わたし。
 そのとき、何かがわたしの手に触れる。

―――……ヴィス?

 ヴィスが、わたしの手を握っていた。
 驚きすぎて、涙が一瞬止まってしまったくらいだった。
 ヴィスは真剣にわたしの顔を見ながら、手を握っていた。ずいぶん長い間外にいたせいで氷のように冷えているわたしにとって、ヴィスの手はまるで燃えているように熱く感じられた。

「僕は」

 思わず、唾を飲んだ。

「僕はさくらが、すごいと思う。」
―――え?

 それはヴィスの口から初めて聞く、一番長い言葉だった。

「君は正しいことをしたんだ。自分が辛いことを誰かのためにするのってすごいと思う。
 さくらはいつも、誰かにそういうことをしてきた。
 でも、もういいんだよさくら。君は何も背負うことはないし、後悔しなくていいんだよ、もう。」

 さらに強く手を握られた。自分より子どもだと思っていたヴィスの指が案外太くて、男らしいことに不覚にもどぎまぎした。
 自分は今どういうことになっているんだと、パニックに陥ってしまった。
 そんなわたしに、ヴィスは続ける。まっすぐな言葉を、わたしに投げる。

「僕は弱みに付け込むようなことはしない。さくらが大丈夫になったら、僕はそのとき、ちゃんと伝える。
 ずっと君を、見ていたんだ。だから、もっと僕を頼って。」

 何故、今まで気づかなかったのだろう。自分の鈍感さが本当に嫌になった。
 こんなまっすぐな気持ちを抱きながら、わたしとみしらぬネコさんを見ていたのか。
 ヴィスは、ずっとずっとわたしを見守っていてくれたんだ。そう思うと、本当に、申し訳ない気持ちになった。
……今、この愛情や優しさにすがれたら、どんなに楽だろう。
 目を強くつむって、つい現実から逃げようとしてしまう。
 でも、だめなんだ。
 こんなときにさえ、あの花火大会のことを思い出してしまう。みしらぬネコさんの温もりを探そうとしてしまう。
 わたしは今でもこんなに、彼が好きなんだ。もう会えないとしても、それでも。
 こんな中途半端な気持ちでヴィスや、ヴィスを好きなとまとを傷つけたくなかった。
 ヴィスの思いを踏みにじりたくなかった。
 だから、わたしは手を離した。ヴィスはうなずくと、なんでもないように帰っていった。
 きっとわたしのために、なんでもないように振舞ってくれたのだとわかった。


 ごめんね、ヴィス。
 今も、今までも、本当にごめんなさい。
 わたしは後姿に、必死で謝った。そして、ありがとうを繰り返した。