【どうぶつの森】さくら珈琲
「わー!?」「きゃー!!」「うわー!!」
―――!?
急にみんながドアから押し寄せてきた。そう、村中の「みんな」が。
「いってぇな!! 誰が押したんだよ!!」
ロボが怒鳴る。え、なんで、なんでなんでなんで!?
突然の事態についていけないわたしを、レベッカ姉さんはくすくすと笑った。
「ヴィスくんが村中のみんなを叩き起こしたのよ。『さくらが落ち込んでるから励ましてやってくれ』って。すごく真剣だったわよ」
気づけば、みんながそろっているけれど、ヴィスの姿がない。……それに、とまとも。
「さくらくんが泣いてる!? だ、だいじょうぶぅ!?」
ラッキーが駆け寄って、自分の顔に巻いてある包帯の切れ端で涙を拭ってくれた。もちろんこの時も、顔の包帯はほどけないように必死に押さえたままだけど。
1ごうが大声で言った。
「気にすんな5ごう! 失恋の一つや二つ! なんなら今からおいらと……」
1ごうは村中のみんなに一斉にひっぱたかれて、そのまま倒れて動かなくなった。2ごうと3ごうはそれを見て当然といった表情。相変わらず部下に慕われないリーダーだ。
とたけけさんは楽しそうに吼(ほ)えた。
「たまにはハメ外しちゃおうか!」
そのまま「けけパレード」を歌い始めた。すっかりパーティ状態である。マスターも次々とりんご酒を出してきた。
当のわたしはいまだに状況が把握できなくて、その騒ぎをぼけーっと見ている。みんなが駆け寄ってわたしに大丈夫かと聞いてくれているのに、何も答えられない。
ただ、この言葉を繰り返すだけだった。
―――ありがとう。
みんなは「何言ってんの!」と笑い飛ばしてくれた。
けれどわたしは、壊れた機械のように同じ言葉を繰り返し続けた。
ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう……。
「だ、大丈夫か!?」
リクが、崩れるわたしの身体を支える。
視界がぼやけていく。
ありがとう。
みんな、ありがとう。
本当に、ありがとう。
みしらぬネコさん、ありがとう。
バイバイ。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗