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【どうぶつの森】さくら珈琲

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***


 借りたホテルの一室で、彼女は言った。「ねぇノラ、また会えるなんて、本当にうれしいよ」と。
 最後に別れてから何年も経つ。彼女はあの頃と違って見えた。あの頃よりもっと綺麗だったし、健康状態だってよさそうだ。痩せっぽちで死にかけていた少女の姿はどこにもない。
 だけれど、オレの中にある違和感はそれだけじゃなかった。この部屋に足を踏み入れたときから感じているそれが何か、形容できずにいたんだ。

「ノラもうれしいでしょう?」
「ああ……」

 オレはうわの空で生返事をした。ここ数日、オレの頭の中でいろいろと思考がめぐっていた。
 サクラは整った顔を少し歪ませ、「もうっ」と少しすねて見せた。
 おかしいな。こんなに綺麗な恋人と、また再会できたのに……。オレは何をそんなに、気にかかってるんだろう?

「また外ばかり見てる」

 サクラは言った。
 オレはどうやら、いつの間にか窓の外ばかりに目をやっていたみたいだ。街頭もない、星もない、ただ真っ暗な闇しかないのに。
 まるでそこに、答えを求めるように。

 その沈黙を、唐突な電子音が裂いた。
 サクラのケータイが鳴り響いた音だった。サクラは一瞬だけ気まずそうな顔をして、「ちょっとごめん」と言うと席を外した。
 なんだろ、あんなコソコソして……。オレは何気なくケータイが入っていた彼女のカバンを見つめた。

「え……?」

 悪いと思ったが、中に入っている分厚い手紙にただならぬ予感を感じて、思わず手に取ってしまった。
 それを読んだ後、オレは部屋に戻ってきた彼女に問い質した。

「これ、どういうこと?」

 サイハテ村を買収したものの、村の人口が減り思うように事業が進まないこと。詐欺や環境破壊、奴隷制度の黒い噂がとっくに広まりすぎていること。
 一時的な村の復興の計画、後に後任者、もといその責任を押し付けられる人物を探すこと。その手紙はまるで、指示書のようだった。
 その後任者の役割は、きっとオレのことだろう。
 そして手紙の主は、名言されていなかったが――サクラの夫であることは、いくら鈍いオレにだってわかった。

「そ、それは……」

 サクラは、あからさまに動揺して見せた。今まで十分な名演技をしていたというのに台無しだ。オレもオレでずっと馬鹿みたいに気づかなかったことが、我ながら情けなくなった。思えば、今まで何年もサイハテ村に関与していなかったオレにしつこくすがる時点で、怪しかった話なんだけどね。
 ただ、一方で、これは何かの間違いだと信じたい気持ちがあった。だってオレの中のサクラは、あの頃のまま生きていたからだ。
 脅されて、渋々やっている可能性だってあるじゃないか。
 だけれど彼女は、開き直って見せた。

「そうよ。だって、サイハテ村はまだまだ利用できるもの」
「利用って……キミの故郷なんだよ!?」
「故郷? そんな風に思ったことなんてないわ。私はあの村を憎んでいた。両親がいないのをいいことに、私を奴隷扱いし続けたあの村をね。
 だから今度は、こっちがとことん利用してやろうと思ったの。だってそうじゃないと、フェアじゃない!」

 今までオレは、どうやら彼女の表面しか見えていなかったようだ。
 一度も見たことがない彼女の表情だった。憎々しげで、苦しそうで、怒りに狂っていて。それを、どこか冷静に見ている自分に気づく。
 ああ、わかった。
 彼女の姿が、前のオレにそっくりなんだ。

「それで、オレのことも利用するんだね?」
「初めてあなたに故郷に帰れと諭されたときは、もう一度頑張ってみようという気にもなったわ。
 けれど結局、どんなにあがいてもあの村は搾取され続けることに変わりはない。私はもう、そんな立場にいたくない」
「今だって、変わらないじゃないか。キミは旦那に利用されてる」
「そんなことない。これは――私の、意志よ」

 サクラの言葉は本心なのか、それともこの場を何とかするための虚勢なのかはわからない。しかし元はとても頭の良い子だったから、誤魔化しもせずにこんな風に告白するのを見て、ずいぶん投げやりになっているように感じた。
 オレは、また裏切られたというわけだ。けれど今回は怒りや憎しみがちっともわいてこなかった。呆れて、笑い飛ばしたくなってきたくらいだ。

「叩けば?」

 と、サクラは言った。

「叩けば、いいじゃない。あなたを二度も裏切ったんだもの。好きなだけ痛めつければいいじゃない」

 そう来たか。あの金持ちと結婚して、ずいぶん彼女は狂わされてしまったみたいだ。
 オレは、ため息をつきながら言った。

「いいよ。オレは、サイハテ村を助ける。そしてついでに、キミのことも助けるよ」

 予想外の返事だったのだろう。そこにどんな意図があるのか、サクラはわかりかねているみたいだった。

「いや、キミが思うようなそういう下心とか、そういうのはないよ。
 ここ一年で、オレもすっかり毒が抜けちゃったみたいでさ。
 今更誰かを怒ったり憎んだりとか、そういうの、疲れちゃったんだ。いわゆる、過去の清算ってやつ。」
「ノラ、私を怒ってないの……?」
「うん、全然怒ってないよ。唯一怒ってるといえば、自分に、かな」
「え?」
「あの時、キミの本当の苦しみや憎しみに気づかなかったこと。あの時、キミが結婚するのを止められなかったこと。サイハテ村から逃げ出したこと。」

 そして、こんな最低な事実のために、あの子を傷つけてしまったこと。
 あの子は、オレに向き合えと言った。あの美しい小さな村で過ごした、綺麗な心のあの子は、自分が傷ついてもオレにその選択をさせてくれた。
 だからオレも、出来る限りのことをしてから、帰らなくてはいけない。

 明日から大仕事だ。オレは困惑したままのサクラを置いて、勝手に寝支度を始めた。