境界線をかっ飛ばし
物を突き刺せそうな剛毛に見えたそれは、実際に触れてみれば案外しなやかな感触だった。本当に髪の毛なのだと凌牙は実感する。不思議なのは、整髪料を使っている訳でもないのに型崩れせずにきちんと立っているということなのだが。
そこまで考えて、凌牙は肝心なことに思い当たった。――今ここで正体もなく眠りこけているこいつは、いつになったら起きるのか、と。
後日。
「男の膝枕なんて気持ち悪いんじゃなかったっけ?」
昼休みの屋上に二人はいた。遊馬は給水塔に背をもたれ、屋上の床に足を投げ出して座っている。そんな彼の膝を枕にして、凌牙が床に寝そべっていた。自分のデッキを扇状に広げてカードを繰り続けている。昼休みが始まってからもうずっとだ。
目をカードの絵柄に向けたまま、凌牙は素っ気なく答えた。
「ただの仕返しだ」
そう、これは仕返しなのだ。日が西に傾きかけるくらいの長い時間、人の膝を占領してくれた遊馬に対しての。
長いこと重い頭を膝に乗せていたせいで、あの後凌牙は脚が痺れてしばらく立てなかったのだ。動けないまま遊馬の見ている前で悶え苦しむなんて、屈辱以外の何物でもなかった。せめて同じ目に遭わせてやらないと気が済まない。昼休みぎりぎりまで粘れば、遊馬の脚を痺れさせるには十分なはずだ。
遊馬はと言えば特に痺れた様子もなく、凌牙の顔を覗き込んでは一人でにやにや笑っている。咎めるのも馬鹿馬鹿しいので、凌牙はひとまずカードいじりに専念することにした。
(END)
2011/11/13