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あなたの心にはこの気持ちは届かない。

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『彼はいつも失敗してしまう。手に入れたいものがあるのに。』








「この邪悪な気配は!
 出たわね!ゼロス!」

リナとアメリアはとても仲がよさそうに楽しい会話を繰り広げていた。

しかし、リナは食事を食べていた何かを察知し、後ろにむけて自分の持っていたフォークを空間へと投げつけた。

「ひい~~~~~!」

投げたフォークは勢いがよかったため、隣の客の顔面すれすれをとおり、後ろの壁に突き刺さってゆれている。

「あら・・・ごめんさい。ははは・・・」

リナはその客に謝ると、何もない空間をにらみつけた。

「リナさん。危ないですよ。
 いきなりフォークを投げつけるなんて、本当に刺さってしまったら痛いでしょう?」

その何もない空間から蜃気楼のように出てきた青年はふーやれやれという手振りを見せ、

「どうも、すみません。僕の連れがご迷惑をかけて。」

と、にこやかに言い、壁に突き刺さっているフォークをひょいと抜いた。

その客はフォークがいきなり飛んできたことにも驚いたが、何よりも、何もない空間から青年が現れたことのほうがよほど驚愕したようで、
もう何もいわず、目を白黒させている。
とても、文句を言う気にはなれなかったようだ。

そのフォークを緋色の髪をした少女のテーブルに置きながら、
青年は少女の横のいすに座る。
そして、真向かいの黒髪の少女にも挨拶する。

リナとアメリアはちょうど宿屋のレストランで食事中だった。

「こんばんわ。アメリアさん。」

それにつられて口に肉をくわえていたアメリアもごっくんしてぺこりと頭をさげた。

「毎度毎度思うんですけど、リナさん。
 僕のことをゴキブリみたいに言うのはやめてくださいよ~!」

「あら~だって間違ってないじゃない。
 暗くて陰湿でじめじめしたところからいつもいきなり現れるのはあんたのほうじゃない?」

ぐっと。ばかりに、ゼロス。
ちょっとこめかみがひくついている。

「いえ、まぁ確かに。
 暗くて陰湿といった意味では、魔族的な雰囲気も含め間違ってはいないかもしれませんが・・・

 が!僕がいつも通っているアストラル世界はじめじめなんてしていませーん!!」

そして、こぶしを握り締め力説した。

「むしろ、カラッとしています!
 ええ。しすぎるくらいです!!
 なぜって、アストラル世界に水分なんてあるわけがないじゃないですか!
 なんといっても精神の世界ですよ?
 湿度0%です!!」

青年が言い終わるころ、リナはこの熱くアストラル世界を語る青年をあきれた顔で見ていた。

「なんですか・・・?だめなんですか?」

「いや、だめってわけじゃないけれど、別にあたしたちそんなの知っても、そこにおいそれといけるわけじゃないし・・・」

一方アメリアのほうは好奇心が旺盛らしく身を乗り出して聞いていた。

「へ~そうなんですね!アストラル世界ってそうなっているんですか?」

でも、腕組みをし、ちょっと考えてからアメリアは話した。

「でも、湿度0%って、そんなところ私行きたくないです!やっぱり、そこは魔の世界です!
 だって、そんなところ女の子が入ったら、お肌なんかたちどころに乾燥!
 かっさかさの肌になっちゃいますよ!
 それはすなわち悪!!いや~~~~~やっぱり、ゼロスさんは悪魔~~~~~!!」

リナもそれには納得とばかりに、

「うんうん、そういえばそうね!それは乙女にとって最悪スポットだわ!悪よ悪!!」

「あの~みなさんの悪のポイントはそんなところなんですか・・・?」

「おほん!いえいえ、そんなことないです!
 ゼロスさん!
 そうです、私も毎回毎回言わせていただきますが、そろそろ魔族をおやめになってはいかがです!?
 まっとうな道に戻り、私たちと同じように人間になるべきです!
 そうすれば、そんなアストラル世界なんていう湿度0%のところになんて行かなくてすみます!!」

「魔族すなわち悪!」

アメリアの意見に面白おかしくなったリナは便乗する。

「なんです!!二人して僕を否定するんですね!!
 アメリアさんもね、言っておきますけど、魔族なんかよりもよっぽど人間のほうがひどい存在なんですからね!」

「アメリアさんも一国の王女様だったらわかるんじゃないんですか?」

にやり

青年は笑った。

「そもそも人間なんていう生き物は魔族に言わせるところ低俗です。
 たとえばですよ、本当に憎くてたまらない人の隣にいたとしても平気な顔でへらへら笑って、その人の揚げ足を取るチャンスを虎視眈々と狙っている人もいたりですね。
 他にも信頼されていることを利用して、その実はその人の預かり知らぬところでその人のものを盗んだりしたりしてるんですよ?
 アメリアさん、あなたのうちの臣下の方々。政治家の方たちなんかその最たるものではないんでしょうか?
 いるでしょう?そういう方たち。」

「そんな人・・・いません・・・」

心当たりがあるのだろう、いつも正義感の彼女はだんだん声が小さくなってしまった。

あたっているだけに、悔しいのだ。

自分と父親は絶対にそういう人種じゃないのに。

「おや?声が小さいですよ?自信がないんじゃないんですか?ふふ。」

勝った!と、ばかり、青年はにやりと笑った。

「本当!あんたって、性格悪いわね!そんなの言われなくたってわかっているわよ!
 でも、魔族と違って、人間にはそーいう人間ばっかりじゃないのよ!」

リナが援護する。

突然リナたちの元にやってきたと思ったら、食事をまずくするような話題で絡んでくるこの青年。

ときどきこういう絡み方をしては、人の感情を乱して。

きっと負の感情を食べてるに違いないわ。と、リナは苦虫をつぶしていた。

(だいたい、なんだってあたしたちにいちいち付きまとってくるのよ!こいつは。)

でも、今日の青年はしつこくてやめなかった。

「また。お伺いしますけど、
 だったらそーいう人間ばかりじゃないのなら、なぜ人間はいつまでたっても諍いごとや揉め事などがなくならないのですか?
 戦争は人殺しゲームですよ?

その点魔族は上の命令に絶対服従ですから、そう簡単に揉め事なんて起こりませんよ。
 
 ほら!絶対に魔族の方が人間なんかよりも心がピュアだと思いません?
 絶対にそうですよ!だって、上からの命令に何の疑問ももってはいけないんですから!
 つまり、獣王様自体が魔族にとっての正義になるわけです!
 それに、魔族は嘘を人間みたいにつきませんしね。」

「でも、おかしいじゃない?
 あんたの正義の獣王様にご命令をかさに立てて竜族を滅ぼしたじゃないの?」

「そうですよ?
 それがなにか?」

「そのときの話を聞きたいのですか?
 すべてを一撃でしとめたそれらが空中から落ちていく様は、それは凄惨なものだったかもしれないけれど、
 僕は確実にその方たちの息の根を止めました。
 
 それは、ある意味僕の魔族の中にある慈悲の心だったかもしれません。」

「アメリアさん、でもやっぱりね、どう考えても人間のやることのほうがむごいんです。
 なぜなら、それは同族同士だからなのだから・・・」