あなたの心にはこの気持ちは届かない。
そういって、彼はテーブルの上にあった赤い色のお酒の入ったグラスを手にとると、めずらしくぐいっといっきに飲み干した。
「僕は昔、獣王様のご命令で人間の魔法医の元にいたことがあったんです。
そこではね、時々信じられないくらいの凄惨な事件があったんですよ。
なにもそこに来るのは風邪ばかりの人だけじゃないんです。
ある夜更け二人組みの男が街の人に担がれてやってきたんです。
体は見るも無残なほど暴行の痕跡。
明らかに喧嘩に巻き込まれたようでした。
暴行の痕跡はひどく、体中あざだらけ。
一人の男は顔面をひどく殴られていました。
でもね、その男の左目は開けなかったんです。
そして、その目はもう永久に光をみることはできないほど、つぶれていました。
もう一人の男はね、かわいそうなことですが、肛門の方に壊れたいすの足を見るも無残に入れられていました。
ただ、入れられただけならよかったんですが、気の毒なことに、それは直腸を穿孔してしまっていたんです。
医師の判断では、もう二度とそこは使えない。
手術が必要で、腹部に特別な肛門を作るしかないといっていました。
ねえ、みなさん。
これがどういうことかわかりますか?
その男たちはもう二度と普通の生活を送れないのです。
それこそ、永遠に。
だったら、いっそのこと殺されればよかったですのにねぇ。
そう思いません?
人間って本当にひどい生き物だ。
何もわかってはいない。
『絶望』というものを。」
「どうお思いになられます?アメリアさん。
こういうことはきっと、世界各地で同様におきているんですよ。」
アメリアはだまってしまった。
言葉に何もできなかった。
そのまま目頭が熱くなり、終いにはぽろぽろと泣き始めてしまった。
「ああーアメリア、もう泣かないでよ。
行こう?あんたのベッドまで送っていってあげるから。
もう寝なさい。」
リナは立ち上がり、彼女の肩を持つ。
「ゼロス、あんたって、本当にいやなやつね。
お詫びにここの勘定はあんたもちよ!
いっぱい負の感情を食べたでしょう。」
そうして、彼女たちは2階へと続く階段に消えていった。
作品名:あなたの心にはこの気持ちは届かない。 作家名:ワルス虎