あなたの心にはこの気持ちは届かない。
「ちょっと、いるのはわかってるのよ、ゼロス。
ここはあたしの部屋よ。乙女の部屋に夜分訪問なんて紳士のすることじゃないんじゃない?」
すると、闇の青年は物陰から出てきた。
「リナさん・・・」
リナはもうパジャマに着替えていた。
シャワーも浴びたので、ベッドに腰掛けそこにタオルを敷いてから緋色の長い髪にブラッシングを丁寧に行っていた。
青年は背後から近づく。
ろうそくしかないこの部屋は薄暗かった。
「あんた、言っとくけどね。
女の子を泣かすことが一番の悪よ!
あたしにとってはね!
ええーい!この性悪ゼロス!
出て行けーー!!」
それを彼女はぱっと振り返ると、ゼロスの首をつかんでいた。
「すみません~~!」
「ほんっとにもう!!
あんた今日のはないんじゃない?
アメリアは相当傷ついてたわよ。
あの子に意地になるなんてちょっと大人げないんじゃない?」
「ええ。
まぁ、そうだったかもしれませんね。
ですけどね、リナさん。なんせ、僕は魔族ですから再三申し上げているとおり、嘘はつけないんですよ。
つまり、本当のことを言ってしまうんです。」
「なによそれ!
だったら本当のことを言わないまでも、あんたのお得意のだんまりを貫き通せばよかったじゃない!」
「誤解を解きにここに参ったわけではないんですけど・・・」
「実は僕はああいう人が一番嫌いなんです。
アメリアさんやガウリイさんみたいな、いかにも善良そうな人たち。
僕はああいいう人たちを見ると虫唾が走ります。
きっとね、彼女たちは人間の本質というものを知らないんです。
知らないで正義などなんだのと語るのはよくないと思いませんか?
そもそも人間は欲の塊以外何者でもないんですよ。」
「それでも、そのことを知ってもアメリアは理想を曲げたりしないわよ。
正義を愛するアメリアは。
あたしもそんなアメリアが大好き。時々大変な子だなって思っても。
でも、そんなにアメリアたちを毛嫌いしなくったっていいじゃない?」
「それはー・・・
もちろん、秘密です。」
「あっそ。わかった。」
「あたし、やっぱり今夜は自分の部屋じゃなくてアメリアの部屋で寝てこよう。
ゼロス、人間ってね、一人では眠れない時があるのよ。
隣で眠っても、彼女の気持ちはわかってあげられないかもしれないけれど。」
「もし、あたしのベッドを使いたかったらどうぞ。
あたしは今夜はここには戻らないわ。
でも、あんたは寝る必要なんてなかったわね。魔族さん。ふふ。」
そういって、紅の瞳の少女は自分の部屋を後にした。
扉の閉まる音がすこしやさしかった。
青年は少しの間彼女を見送った。
きっと今夜はあの黒髪の少女は彼女の温かい腕で泣きじゃくるだろう。
それは少女の心を暖める。
「そう、確かに僕の腕では冷たすぎますね。」
リナさん、なぜ彼女たちを僕が毛嫌いするかって、
それはああいうひとたちのほうがあなたの心を持っていってしまいそうだからなんですよ。
青年は少し寂しそうに微笑み、ベッドの上に広げられていたタオルをたたむと、そこへと腰掛けた。
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やさしさって何なのかって問われたときに、その人がつらいときに、何も言わず、そっと寄り添えることが、今の私たちにできる究極のやさしさかななんて思うんですけど。
みなさんは、いかが思います?
ここに登場するゼロス君はちょっと冷たいですね。
作品名:あなたの心にはこの気持ちは届かない。 作家名:ワルス虎