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玄塊群島連続殺人 黎明編

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もう一つのプロローグ



白鬼の人身御供

草深い林の奥、半ば自然と同化しつつある廃屋の玄関を、学生らしき坊主頭が潜り抜けた。
坊主頭は、きょろきょろと家のなかを眺め回すと、眠たそうに彼をみつめて床の間に寝そべっている男に、「よくこんなところに暮らせますね。なにかの訓練、もしくは苦行の類いでもされてるんですか、先生。」となぜか嬉しそうに言った。
家の主らしき男は、ふけだらけの頭を掻きながら、
「うん?これ以上私に学ぶべき技術、語るべき真理があるとでも?
この生活は私の美学を端的に具現している。ただそれだけのことだよ。」と給わった。
「先生は常識に囚われないホームレス生活を満喫されていると。それもいいでしょう。(男は家なら有るぞとばかりに床を指差す) ええ、ええ。不法占拠ですけどね。
しかし、人生、事件がないと、起承転結がはっきりしていて心踊る物語がないと。つまらないですよね。」
社会不適合者は豪快に鼻を鳴らす。
「当たり前だ。それがなくては、私など生きる気力も価値もないわ。貴様のコトだ。ネタがあって此処に来たんだろう。」
坊主はつるりと頭を撫でて、言う。
「もちろん。いきのいい、飛びっきりの難事件です。なんせ僕らが第一犠牲者なんですから。ハハハハハハ。」
さあ、始めよう。


汕岬での一件から二週間後、ようやく村に落ち着きが戻ってきた頃の正午、藤上本家の息女、佳奈実が往来疎らな通りの真ん中で突如、奇声をあげ倒れてしまった。声を聞き付けた近隣の住民が彼女を、介抱しようとしたところ、藤上の使用人を名乗る男が彼女を強引に担ぎ上げ、逃げるように立ち去った。
不審に思った人びとは、藤上本家に連絡を取ろうとしたが、電話は音信不通、家は静まりかえり人気はなかった。
村民で唯一、一族以外の者で藤上家と親交のある田宮庄八の話では、村民と接触した男が、鈴鹿という新参ものの使用人であり、藤上家は本土で経営に参画する企業の集まりため、総出で数ヶ月島を離れることになっていたらしい。
中学生である佳奈実は、一学期が終わるのをまってから、家族に合流するとの事で、倒れたのも軽い貧血で、体に異常はないらしい。村の最有力者である田宮の証言に、彼らは一応納得したようだった。
そして、佳奈実の一件、また汕岬の事件はしだいに人の口の端に登らなくなった。

そして、唐突に田宮は村長を辞任した。