魔族の待ち時間
『この期に及んで見苦しいかもしれないけれど、お願い。あたしとあんたの仲じゃない。
ほんのすこしでいいの待って。
・・・そうですね、これまで一緒に旅をしていたリナさんとの仲です。
では、ほんの少しの時間を楽しんで、リナさん。
では、後ほど。』
私の家はセイルーンシティから街道を10km南下した街で、他の国との交易の宿場町として栄えていた。
この街は本当に素敵。
街の中心街にはたくさんの露店が並び、活気ある人々がいろいろなものを売っている。
今夜の夕食のために主婦たちがたくさんいて、食材店の前で群がっている。
私は主婦じゃないけれど、食材店に並んでいた。
だって、今日の私のミッションがあるんだもの。
顔見知った店主はあたしを見ると話しかけてきた。
だって、毎日ここに通っているお得意様だもの!
ここは新鮮でおいしいし。
おすすめよ。
「こんにちわ。おじさん。」
「毎度どうも!リーメイちゃん!
いつもスラリと長身でかわいいね!その髪短いけど伸ばさないの?
もっと美人になるよ!」
「おじさん。わかってるわ。私は髪を伸ばさなくても美人よ。」
「はは、そうだったな。確かにそのまんまでもリーメイちゃんは別嬪さんだよ。
ところで、今は秋だろう?
今日はさ、セイルーンの西の森で取れたアンズダケが新鮮だよ!
このオレンジ色のきのこがそうさ、ほら、杏のような甘い、いい香りがするだろう?
これを買って、白身魚を焼いて、そこへ添えたらも~う絶品さ!
どうだい?」
そういって、おじさんはかごに入れてあったたくさんのきのこを私に見せてくれた。
私はそのきのこに鼻を近づけてみる。
う~ん!本当に甘くていい香り!フルーティ!
今夜はこれで決まりね!
「おじさん!それ買った!!ついでにおじさんのいう白身魚も!!」
「はい!まいどー!」
あたしは、買い物を終えて家路へと急いでいた。
だんだん日も傾き始めていて、もうすぐ夕方だ。
そろそろ家族のみんなが仕事を終えて帰ってくる時間に近づいているのだから、食事を作らなくちゃ!それが私のミッションよ。
それに、おばあちゃんが待ってるわ。
買った食材たちを持って、人の波をよけながら歩いていると、突然肩をつかまれた。
「きゃ!」
あたしは驚いて、つかんでいる腕をつかみ振り払った。
その人はびっくりしたように手をぱっと離すと、バツが悪そうに、ぽりぽりと頬を掻いている。
20台半ばだろうか、黒髪のおかっぱで妙な黄色のインナーと黒ずくめの神官服を着て、右手には錫杖を持っている。
「誰なの?」
どこかの神官様なのだろうか?
やけにニコニコしていてほとんど彼の瞳が見えないが・・・あやしい奴。
私にそんな大層な知り合いなんて、記憶をひっくり返してみても、心当たりなどない。
私は彼をにらんだ。
「す、すいません~。僕としたことが、どうやらあなたを驚かせちゃったみたいで。そんなつもりじゃなかったんですよ~!
でも、何度もすみません。と、後ろから声をかけていたんですけれど、
お気づきになられなかったので、つい肩をつかんで引き止めてしまったわけです。」
神官服の彼は慌てている。
もちろんよ。
突然、乙女の肩をつかむなんて許せない。
「あ、そうだったんですか?
すいません。あたしも家に早く帰ろうと急いでたもんだから。
ぜんぜん気がつかなかったんです。
ところで、あなたあたしに何か用なんですか?」
私はちょっとそっけなく言った。
「いえ、あのー・・・本当に失礼と分かっててお尋ねするのですが、
あなた・・・あの悪名高かったリナ=インバースに似ていらっしゃるといわれません?」
それは思ってもみない質問だった。
「へ?
ええ?
リナ=インバース?
おばあちゃんは、リナ=ガブリエルですけど・・・」
なんでおばあちゃん?
しかも、悪名高かったなんて、ちょっといやみな言い方ね、この人。
彼はにこにこ顔の眉をちょっとだけ動かすと、少しびっくりしたようだった。
「そうですか・・・リナさんはガウリイさんとご結婚なさっていたんですね。
で、あなたはもしかしてリナさんのお孫さんなんですね。
はぁ~どおりで、似ているわけです。
本当にそっくりだ!」
その青年はどこをどうしておばあちゃんの昔を知ったかはわからないが、あたしの顔をしげしげと見つめ、大層驚いた様子だった。
「そうですよ。
あたし昔からよくみんなに言われるんですけど、
おばあちゃんの若いころにそっくりだって。
お前のショートカットの髪の毛を伸ばしたらうり二つだって、よくおじいちゃんにも言われていたような気がします。
もしかしたら、だんだん大人になってきて、もっと似てきているのかもしれないですね。」
「ところで、本当にあなたは誰なんです?
昔のおばあちゃんのことを知っているなんて・・・」
本当に誰なんだろう?
確かに、昔おじいちゃんから聞いたことある。
おばあちゃんがドラゴンもまたいで通る『ドラまた』だの、魔族すら倒しちゃった女だのなんだのって、すごいうわさを聞いたことがあるのはあるんだけど・・・
昔の話だから。
でも、そのせいで、昔おばあちゃんは有名になっちゃってから、新聞に顔写真でも出てたのかしら?うーん。
今でも有名?
「いえ、僕は本当にリナさんと知り合いなんですよ。
一緒に旅をしたことだってあるんです。
とても仲良くご一緒させていただきました。
ずいぶん長くご一緒させていただきましたから・・・
僕のこと聞いていらっしゃらない?
そうですか。」
「おばあちゃんたちからあなたのこと何も聞いていないわ。
でも、なにより、一緒に旅したってあなたは言ってるんだけど、
年齢が合わないじゃない・・・?だったら、あんただっておばあちゃんと一緒ぐらいの歳になってなきゃおかしいじゃない?
だって、おばあちゃんはもう85歳よ?だったらあんたいったい何歳よ・・・」
青年は、くすりと笑うと人差し指をちっちとさせながら。
「それは今は秘密です。
おばあさまと会ったらお話しましょう。
今はまだ、あなたを驚かせてしまってはいけないから。」
と、ゆっくりと答えた。
うーん食えない人ね、この人。
神官なんていう職業をやっていそうだからかしら??
「実はね、僕は昔、
あなたのおばあさまとお約束をしたんです。
その約束で、ぜひ、いただきたいものがあるんですよ。」
「その約束は本当に?」
「ええ。もちろんです。
その約束は本当に僕たちにとって大切なものでしたが、
リナさんは僕に、待ってくださいとおっしゃいましたので、僕は待ちました。
でも、もうそろそろいいだろうと思って・・・
こうして、参ったというわけです。」
有無をいわせなさそうなこの神官姿の青年に私はどきりとした。
少し、にこ目を開いた姿からは真剣な思いが伝わってくる。
きっと本当に約束したのだろう。
過去に。
それに、おばあちゃんは・・・
「わかりました、神官さん。」
ほんのすこしでいいの待って。
・・・そうですね、これまで一緒に旅をしていたリナさんとの仲です。
では、ほんの少しの時間を楽しんで、リナさん。
では、後ほど。』
私の家はセイルーンシティから街道を10km南下した街で、他の国との交易の宿場町として栄えていた。
この街は本当に素敵。
街の中心街にはたくさんの露店が並び、活気ある人々がいろいろなものを売っている。
今夜の夕食のために主婦たちがたくさんいて、食材店の前で群がっている。
私は主婦じゃないけれど、食材店に並んでいた。
だって、今日の私のミッションがあるんだもの。
顔見知った店主はあたしを見ると話しかけてきた。
だって、毎日ここに通っているお得意様だもの!
ここは新鮮でおいしいし。
おすすめよ。
「こんにちわ。おじさん。」
「毎度どうも!リーメイちゃん!
いつもスラリと長身でかわいいね!その髪短いけど伸ばさないの?
もっと美人になるよ!」
「おじさん。わかってるわ。私は髪を伸ばさなくても美人よ。」
「はは、そうだったな。確かにそのまんまでもリーメイちゃんは別嬪さんだよ。
ところで、今は秋だろう?
今日はさ、セイルーンの西の森で取れたアンズダケが新鮮だよ!
このオレンジ色のきのこがそうさ、ほら、杏のような甘い、いい香りがするだろう?
これを買って、白身魚を焼いて、そこへ添えたらも~う絶品さ!
どうだい?」
そういって、おじさんはかごに入れてあったたくさんのきのこを私に見せてくれた。
私はそのきのこに鼻を近づけてみる。
う~ん!本当に甘くていい香り!フルーティ!
今夜はこれで決まりね!
「おじさん!それ買った!!ついでにおじさんのいう白身魚も!!」
「はい!まいどー!」
あたしは、買い物を終えて家路へと急いでいた。
だんだん日も傾き始めていて、もうすぐ夕方だ。
そろそろ家族のみんなが仕事を終えて帰ってくる時間に近づいているのだから、食事を作らなくちゃ!それが私のミッションよ。
それに、おばあちゃんが待ってるわ。
買った食材たちを持って、人の波をよけながら歩いていると、突然肩をつかまれた。
「きゃ!」
あたしは驚いて、つかんでいる腕をつかみ振り払った。
その人はびっくりしたように手をぱっと離すと、バツが悪そうに、ぽりぽりと頬を掻いている。
20台半ばだろうか、黒髪のおかっぱで妙な黄色のインナーと黒ずくめの神官服を着て、右手には錫杖を持っている。
「誰なの?」
どこかの神官様なのだろうか?
やけにニコニコしていてほとんど彼の瞳が見えないが・・・あやしい奴。
私にそんな大層な知り合いなんて、記憶をひっくり返してみても、心当たりなどない。
私は彼をにらんだ。
「す、すいません~。僕としたことが、どうやらあなたを驚かせちゃったみたいで。そんなつもりじゃなかったんですよ~!
でも、何度もすみません。と、後ろから声をかけていたんですけれど、
お気づきになられなかったので、つい肩をつかんで引き止めてしまったわけです。」
神官服の彼は慌てている。
もちろんよ。
突然、乙女の肩をつかむなんて許せない。
「あ、そうだったんですか?
すいません。あたしも家に早く帰ろうと急いでたもんだから。
ぜんぜん気がつかなかったんです。
ところで、あなたあたしに何か用なんですか?」
私はちょっとそっけなく言った。
「いえ、あのー・・・本当に失礼と分かっててお尋ねするのですが、
あなた・・・あの悪名高かったリナ=インバースに似ていらっしゃるといわれません?」
それは思ってもみない質問だった。
「へ?
ええ?
リナ=インバース?
おばあちゃんは、リナ=ガブリエルですけど・・・」
なんでおばあちゃん?
しかも、悪名高かったなんて、ちょっといやみな言い方ね、この人。
彼はにこにこ顔の眉をちょっとだけ動かすと、少しびっくりしたようだった。
「そうですか・・・リナさんはガウリイさんとご結婚なさっていたんですね。
で、あなたはもしかしてリナさんのお孫さんなんですね。
はぁ~どおりで、似ているわけです。
本当にそっくりだ!」
その青年はどこをどうしておばあちゃんの昔を知ったかはわからないが、あたしの顔をしげしげと見つめ、大層驚いた様子だった。
「そうですよ。
あたし昔からよくみんなに言われるんですけど、
おばあちゃんの若いころにそっくりだって。
お前のショートカットの髪の毛を伸ばしたらうり二つだって、よくおじいちゃんにも言われていたような気がします。
もしかしたら、だんだん大人になってきて、もっと似てきているのかもしれないですね。」
「ところで、本当にあなたは誰なんです?
昔のおばあちゃんのことを知っているなんて・・・」
本当に誰なんだろう?
確かに、昔おじいちゃんから聞いたことある。
おばあちゃんがドラゴンもまたいで通る『ドラまた』だの、魔族すら倒しちゃった女だのなんだのって、すごいうわさを聞いたことがあるのはあるんだけど・・・
昔の話だから。
でも、そのせいで、昔おばあちゃんは有名になっちゃってから、新聞に顔写真でも出てたのかしら?うーん。
今でも有名?
「いえ、僕は本当にリナさんと知り合いなんですよ。
一緒に旅をしたことだってあるんです。
とても仲良くご一緒させていただきました。
ずいぶん長くご一緒させていただきましたから・・・
僕のこと聞いていらっしゃらない?
そうですか。」
「おばあちゃんたちからあなたのこと何も聞いていないわ。
でも、なにより、一緒に旅したってあなたは言ってるんだけど、
年齢が合わないじゃない・・・?だったら、あんただっておばあちゃんと一緒ぐらいの歳になってなきゃおかしいじゃない?
だって、おばあちゃんはもう85歳よ?だったらあんたいったい何歳よ・・・」
青年は、くすりと笑うと人差し指をちっちとさせながら。
「それは今は秘密です。
おばあさまと会ったらお話しましょう。
今はまだ、あなたを驚かせてしまってはいけないから。」
と、ゆっくりと答えた。
うーん食えない人ね、この人。
神官なんていう職業をやっていそうだからかしら??
「実はね、僕は昔、
あなたのおばあさまとお約束をしたんです。
その約束で、ぜひ、いただきたいものがあるんですよ。」
「その約束は本当に?」
「ええ。もちろんです。
その約束は本当に僕たちにとって大切なものでしたが、
リナさんは僕に、待ってくださいとおっしゃいましたので、僕は待ちました。
でも、もうそろそろいいだろうと思って・・・
こうして、参ったというわけです。」
有無をいわせなさそうなこの神官姿の青年に私はどきりとした。
少し、にこ目を開いた姿からは真剣な思いが伝わってくる。
きっと本当に約束したのだろう。
過去に。
それに、おばあちゃんは・・・
「わかりました、神官さん。」