魔族の待ち時間
今は、ほとんど彼の瞳は開眼させて、紫水晶の瞳は大きく揺れていた。
そして、その体からは間違うことなき瘴気があふれ出ていた。
ああ!
彼の正体はもしかして!
魔族!!
だから、昔のおばあちゃんたちと旅を共にしていたんだ!
私はようやく彼の存在に気がついていた。
でも、もう遅い!
私の力では彼の創り出したこの魔障壁を越えることなんて不可能だ!
「あなたは、昔僕とリナさんが交わした約束をなんだとお思いになりますか?」
「おばあちゃん!」
「僕はリナさんのお願いで待ちました。」
「まさか・・・!」
「そう、そのまさかです。
僕が彼女より貰い受けにきたものは、リナさんの命です!」
「じゃあ、あなたはおばあちゃんを殺すというの!?
聞いて!さっきも話したとおり、もう、おばあちゃんの命は長くはないわ!!
恨みがあるなら、もうとっくに晴らせているわよ!
死にゆく人間をそっとしておいてあげて!!
あなたはおばあちゃんの仲間だったんでしょう!?」
「あなたは何もわかっていない。
恨みなんかないんですよ。僕に。
ただ、これは僕にとっての使命だった。」
「リナさん。
あなたはガウリイさんと結婚までして、子供まで儲け、
命をつないだ。
だから僕に待っていて欲しいといったんですね。
僕が待った、ほんの少しの時間をあなたは楽しんだようですね。
あなたには充分な時間を生きたようだ。
もう、いいでしょう?
でも、その命は僕のものだ。」
「ゼロスさん!やめて!!おばあちゃんを殺さないで!!」
彼は人間には聞き取れないようなカオスワーズをつぶやくと、
彼の口からビー玉ほどの大きさの紅く輝く球体が現れた。
そのまま
おばあちゃんの唇に静かに唇を重ねると、
そのビー玉は口から体の中へと入っていった。
やがて、その光は消え、
おばあちゃんの体はみるみるうちに青白くなり、やがて呼吸が止まった。
「おばあちゃん・・・ひどい・・・あんた・・・ひどいよ・・・」
あたしは、その場に崩れ落ち、涙を流した。
こんな最後ってない。
おばあちゃんは家族に看取られて静かに行くはずだったのに・・・
「リナさん・・・」
しばらくして、彼はつぶやいた。
あたしが顔をあげると、
おばあちゃんの体はだんだん黄金の光で包まれていた。
するとおばあちゃんの体は、みるみるうちへ少女の姿へと変貌をとげていった。
髪は黄金色。
唇はバラ色にぷっくりとして、紅く・・・
頬は朱で染まっていた。
彼は、少しかがんで、もうすっかり少女の姿になってしまったおばあちゃんの耳元で何かをいい、
おばあちゃんは目をゆっくりと開けた。
おばあちゃんの瞳の色は色は髪と同じ金色になっている。
いったいどういうことなの!?
「おはようございます。リナさん。
遅いお目覚めです。」
「ゼロス・・・」
おばあちゃんは少しびっくりしたように彼を見張った。
少しして、状況が理解できたのか、
黄金色の少女になったおばあちゃんは、ベッドから起き上がり、彼を見つめていた。
「僕は、きちんとあなたとの約束を守りました。」
そして、青年はおばあちゃんの手を取り恭しくひざまずくと、その手の甲へと口付けを落とした。
「あなたの人間としての命は僕がいただきました。
あなたの命は僕のもの。
もう、他の人間のようにあなたが輪廻の輪の中に入ることは永久にないでしょう。」
「そう・・・」
「でも、この体は?」
「言ったでしょう?
人間としてのリナさんの命はいただいたって。
今のあなたの胸に宿る命はロード・オブ・ナイトメア様のものです。
そうです。あなたの中に金色の魔王様の一遍は封じられていたんです。
僕の使命は、金色の魔王様を解放すること。」
「だったら、あたしの命は?」
「おっと、それは僕だけのものです。
もう、お返しすることはできません。
この仕事の報酬はリナさんの命だって、獣王さまとお約束したんですから。」
「えー!?何よそれ!!
じゃああたしって、この金色の魔王がいなくなるまで、永遠に生き続けなくちゃいけないってわけー!?」
「はい♪そうですよ。
これより、僕はあなたに忠誠を誓います。
永遠に。」
そういうが早いか、ゼロスはおばあちゃんをお姫様抱っこする。
「きゃあ!」
「僕はこれからあなたに魔族としてのいろはを教えてあげなければなりませんね。
忠実な部下として。それは至極当然のことですね。
では、行きますよ?
獣王様にはずいぶんと長い時間お待ちいただきましたから、
あまり、遅れると不機嫌になられてしまって、厄介です。」
「ちょっと!おばあちゃんをどこに連れて行くつもりよ!!
おばあちゃん!!」
「リーメイ!」
おばあちゃんは手を私に伸ばしてきた。
でも、届かない。
「リナさん。あなたのお孫さんはあなたに本当にそっくりですね。
リーメイさん。
あなたの身に着けている魔紅玉はね、昔リナさんが僕から無理やり買いとったものなんです。
その宝石は、リナさんの血族に連なるあなたが持っているに相応しい。
あなたはきっとリナさんのように強い魔道士になる。」
「あなたはおばあちゃんを愛しているの?」
「さあ?愛しているんでしょうか?
僕は彼女の命の光に囚われただけのものですよ。」
「それより、知っていますか?
数十年の時も、僕たち魔族にとってはほんの一瞬の出来事にすぎない。
ほんの数時間待つも、
数十年待つのもそれは、どれも同じ時間なのです。」
「では、僕たちはこれで。」
――――失礼します。
そういって、二人は闇へと消えていった。
ふと窓の方を見ると、外はもう夜になっていた。
もうすぐ、みんなが帰ってくる時間だ。
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いや~ここまで読んでくださってありがとうございました。今回はリナちゃんがおばあさんになっても、変わらぬ愛をもっているゼロスを書きたくってこの物語を書きました。
ゼロスはリナちゃんの外見を好きなのではなくて、命を愛しているのです。たぶん。そうあってほしいです。
うまくは書けててないかもしれませんが、私はきれいな場面を想像するのは大好きです。