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リスティア異聞録4.1章 ユーミルはその昏い道を選んだ

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ここはユニオン領、剣の聖女を祀る大聖堂の有るファウル丘陵。この丘陵の一角を治めるのは貴族ヴァーミリオン家である。ヴァーミリオン家は長く続く騎士道と武の家であった。ログレスの政変を目指したファウゼルの反乱の飛び火してユニオンでも諸侯が混乱して小規模な内乱が起きた。その時のことである。現当主はその鎮圧の際にも多大な功績を立てユニオンの国内に留まらず武の英雄として称えられていた。論功行賞の折、ユニオンの若き王レオンが、このような清廉な騎士にこそ中央政権に対する影響力を持って欲しいと考え、ユニオン首都周辺の直轄地を与えようとしたが、

「私には政治は分かりませぬ。私が出来ることは国敵を討つこと、そして目の届く範囲の民を守ることだけです。そういったことが得意な方にお任せするのがよろしいでしょう」

と辞退してファウルの所領へと引き籠ってしまった。この一件で、行き過ぎた武骨者の人気は逆に鰻登りとなり、それに反比例して論功行賞に応じた真っ当な貴族達からは煙たがられることとなった。彼からすれば単に「代々そうしてきたから自分もそうしただけのこと」なのだが、戦乱に疲れ、功にはやり、少しでも我が身を有利な立場に置いておきたいと考える真っ当な貴族の感情から外れてしまっていた。それだけの話。しかし、この武骨者にはファウルの険しい野山を耕す民の姿と、次に対峙することになるであろうログレスの新しい王、それと、そこに集う敵兵の姿しか写っていなかっただけのこと。またこれもそれだけの話。

「ファウゼル…… あの男は……」

ただ、遠目に見ただけで背筋を凍りつかせられたファウゼルの姿だけを思い起こしていた。