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リスティア異聞録4.1章 ユーミルはその昏い道を選んだ

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この当主には二人の子供が居た。父に似た武骨者の長男ルーシェと母に似た情緒豊な次男ユーミルである。ルーシェは既に騎士の見習いとしてヴァーミリオン騎士団に所属し、ユニオン一帯の警備の任についていた。一方、ユーミルは父の指導の元、大剣の扱いを学んでいた。


ある日の早朝のことである。

「父上、このような大きな剣は、なんと言いますか…… どうにも非効率な気がするのですが……」

ユーミルは身の丈程もある重い大剣を振り回し続けたせいで腕を痺れてしまった。痺れた腕をグリグリと回しながら忌々しそうに質問をする。

「ほう、それは……どういう意味だ?」

先程からユーミルの重い斬撃を顔色ひとつ変えずに盾で受け止めていた当主は面白そうに返す。なるほど…… 次男はなかなか勘が良い。長男はどこまでも従順で騎士として国を守る男としては理想的であったが、次男には別の才能が有るのかも知れない。自分と長男には無かった当主としての才を見出せるかも知れない、などと考えた。

「まず、斬るということに着目した時、このように大きな鉄の塊に刃を付けても殺傷能力は低いのではないか?ということ。そして薙ぎ払うということに着目した時、柄には重量が少なくかつ、しなる素材を使って、先端に重量を持ってきた方が好ましいということ。例えば斧のような形状が最適なのではないか…… ポールアクスのような……」

ユーミルは父へ感じていた疑問をぶつける。考えをまとめながらも物怖じしない口調で、実に理にかなった質問をぶつける。確かに大剣は武器としては愚の骨頂と言える形状をしているのだ。父は「面白い……」と感じていた。期待通りの質問である。自然とニヤついてしまうのを必死にこらえ威厳を保ちながら答える。

「ユーミル…… お前の言う通りだ。"相手を殺す" ということについて考えるならば……だ。では、その質問に答える前に質問させてもらおう。騎士とはなんであるか? ということだ」

間髪を入れずにユーミルは答える。

「貴族のことであります。平時は所領を管理し、軍備を整え、非常時には民を守る盾になる者のことであります」

騎士とは貴族のことである。人と土地を守る。守るために君臨している。それは支配、被支配の関係ではなく役割分担である。領民に衣食住を与えてもらう代りに諸外国を威嚇し、いざという時に命を張る者である。と、幼ない頃から叩き込まれた道理をそのままに答えた。

「では、その大剣は何に使うべきものかを考えよ。それが答えになるであろう。今日はここまでにしておこう。これ以上、その気持ちのまま剣を振るより、ずっと重要な時間となるはずだ。明朝、答えを聞かせてくれ」

当主はそう言うと演習用の盾を携えて武器庫へ戻ってしまった。面白い、実に面白い。必死に威厳を保っていた顔をニヤつかせながら盾を磨く。磨き終えて武器庫へしまう途中、盾に残る傷を見付ける。そして一人呟く。

「強くなったな……」

磨いてもなお、深く残る傷が盾にあった。この位置は、先程ユーミルの斬撃がつけた傷だ。その近くに残るルーシェが付けた初めての傷。それよりも深いかも知れない。この傷を付けたのはルーシェがまだユーミルより小さかった頃だろうか?いずれにせよ、この次男と長男、どちらが継いでも、ヴァーミリオン家のこの代は安泰であろう。そうして彼等を子供を作り、その子供は、彼等が鍛えあげてくれる。どのような騎士が生まれ、このファウル丘陵を守ってくれるのか、それまで自分は生きているだろうか? もし、それを見ることが出来ないのならば残念である。それが残念であると思えるほどに楽しみである。