リスティア異聞録4.1章 ユーミルはその昏い道を選んだ
「僕が、道を決めるッ!」
ユーミルはユニオンの首都へと向かう。自分の足で、自分の決めた道を歩くと決めた。その道の先に何が有るかは分からない。でも、歩く道を決めるところから始めなければならぬと悟ったのだ。
数日後、ユーミルはレオンに謁見をしていた。全滅状態にあったヴァーミリオン騎士団を継ぎたいとレオンに申し出たのである。
「救国の英雄であるヴァーミリオン卿のことについては非常に残念に思っている…… が、しかし、見習い騎士ですらないユーミル、君に任せられるほど騎士団は安いものではないのだよ」
「承知しております。しかし、この名前を継げるのならば、他の騎士団の水汲みから、溝浚いまで、なんでもやる覚悟です。どうかお願い致します」
ユーミルは唇を噛みながら深々と頭を垂れる。
「ユーミル、君の覚悟は分かったが、騎士団に水汲みや溝浚いをさせる訳にはいかない。他の騎士団に入って経験を積んで…… というのではなく、あくまでヴァーミリオン騎士団を継ぎたいということか……」
レオンはユーミルの目を見る。あの過ぎた武骨者ヴァーミリオン卿とは違ったタイプの目をしている。どうやら、この若者は政治の話も分かるかも知れない。そして、腕の筋、姿勢、脚の使い方、どれを取っても、武芸が達者であることが見てとれる。「使える、かも知れない……」そう、一頻り考えたあと、
「手続上のミスがあったようだ。ヴァーミリオン騎士団は全滅していなかった。騎士見習いのユーミルが一人残っているだけで事実上解散状態にあるが騎士団としての機能は可能である。騎士見習いのユーミルの登録日はヴァーミリオン卿がガラス古戦場に向かう前日であった。ユーミルはこの間違いを指摘しにきてくれた。こういうことで良いかな?」
ユーミルは、瞬間レオンの言うことが理解出来なかったが、理解が進むうちに顔が晴れていく。
「レオン様、ありがとうございますッ!」
「いや、間違いを指摘しにきてくれたのだ、礼を言うのはこちらの方だろう。しかし、見習い騎士がひとり残っているだけの騎士団。吹けば飛ぶような存在だ。一層励み、国の役に立ってくれ。恥ずかしい話、貴族だけでは人手が足りなくて騎士を一般から募集している状態だ。騎士の斡旋所にいけば志願者に合うことが出来るだろう。まずは、そこで騎士団の再編を行ってくれ」
ユーミルはユニオン式の敬礼をすると飛び出して騎士の斡旋所へと向かう。これで、ヴァーミリオン騎士団の名を残せる。そして家を再興することが出来る。あの楽しかった家、温かかった家、もう父さんも母さんも兄さんも戻らないけれど、もう一度、僕があの家を作る。その為の一歩だ。
ユーミルが騎士の斡旋所に入ろうとすると扉の前で行ったりきたりしている夜っぽいドレスを着た女が居た。怪訝そうに見ていると女が捨てられた子犬が縋るような目をして声をかけてきた。
「…… えっと、騎士斡旋所ってこちらでよろしいのかしら……?」
「ああ、僕はじめてきたから絶対そうだとは言えないけれど、地図によると多分そのはず……」
「…… 騎士志願の方かしら……? 良かったら、一緒に登録手続きしてくださらない? ちょっと勝手が分からなくて不安なもので……」
ユーミルはびっくりした。このような手弱女という言葉がぴったりの風貌の女、夜っぽいドレスを着た女が騎士に志願するのか?
「いや、騎士に志願しにきた訳じゃなくて志願者を見にきたところだよ。これでも騎士団長なんだ。騎士団と言っても、今は僕ひとりだけだけれども。再出発の仲間を探しにきたところ。ところで君、失礼だけど…… 騎士というには、なんていうか強そうには見えないのだけれど……」
「…… やっぱり……そうですよね。でも、魔法が少し使えます」
「ああ……」
ユニオンでは魔術師の地位は低い。余程の実力が無ければ志願しても採用されることはないだろう。この女も、それは分かっていたのだろう。それでも「現状を変えたい」一心、そういう想いで斡旋所まできたものの、変えようとすることに尻込みしてしまったというところか。なんとなく気持ちが分かってしまう。
「ここではちょっとアレだから、あっちの広場で魔法、見せてよ」
ユーミルは深く考えないうちに声が出てしまった。多分、現状を変えたいという想い、再出発、そんな想いが、互いを引き寄せた出会いなのだろう。そういうのってあるのだろう。言葉では表せない部分が感じとったということだろう。そういうことなのだと思った。
この後、魔法の威力を目の前で見せてもらったユーミルは一発で彼女のことが気に入り、斡旋所で手続をしてヴァーミリオン騎士団へ迎える。
ヴァーミリオン騎士団所属 ユーミル隊 ライラ
これが彼女の名前である。この後、ロメオ、ユリエッタと団員を増やしていく。騎士見習だけの新参者騎士団は周辺警備や盗賊団の討伐で良好な実績を残し、第17会戦から参戦する。それぞれの戦場で、まずまずの戦果を挙げる。一時的に直轄地扱いになっていたファウル丘陵の統治権の維持が認められた。次の参戦予定の20会戦が終わったら団員の拡充を図り、活動の幅を広げる予定を立てて臨んだ第20会戦 バルフォグ湖にて全滅。これがユーミルの道の終着であった。
ーー 第20会戦 バルフォグ湖にて
銀髪の少女4人がユーミル隊の横腹に取りつく。そして、魔女 ライラに細剣が迫る。
「ッ!? (ライラッ……!?) 奇襲かッ!?(間に合わないッ)」
肌が透き通るほどに白い銀髪の少女。アンビヴァレンスを宿した目、ガラス玉のような目をしたアヴァロンの少女がバルフォグ湖を背後に細剣を構えている。
ユーミルが大剣を構える間もなく細剣3本で貫かれる。眼前に迫る銀髪の少女の姿を見て、絶命する刹那、彼の目には湖で遊ぶ銀髪のアヴァロンの乙女の姿が見えていた。今まで背中しか見えなかった彼女は、こんな顔をしていただろうか。そのようなことを考えていた。
作品名:リスティア異聞録4.1章 ユーミルはその昏い道を選んだ 作家名:t_ishida