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リスティア異聞録4.1章 ユーミルはその昏い道を選んだ

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ヴァーミリオン騎士団全滅の報は、当主の亡骸を乗せて戻ったという忠義の騎馬と共にすぐに届けられた。この報が届けられた日、ヴァーミリオン領の領民達が喪に服した。後日、旅人の語るところによると、その日のヴァーミリオン領はまるで死に絶えた村であったという。一方、ユーミルは悲しくなかった。勿論、悲しくなかった訳ではない唐突過ぎて意味が分からなかったのだ。

父上が死んだ?
母上が死んだ?
兄上が死んだ?
ひとりになった?
つい先日までここで書物を読んでいられた父上が?
つい先日までここで編み物をしていた母上が?
つい先日までここでお茶を飲んでいた兄上が?
もう居ない?
この家はどうなる?
騎士見習いですらない僕が貴族の当主?

駄目だ、今は考えたくない。

ユーミルは自室に引き篭って寝てしまった。その夜、使用人達は屋敷から金目のものを盗んで逃げてしまった。厩のお爺も同様である。力を持った領主が死亡し、まだ騎士の見習いですらない、次男が家を継ぐということになれば没落は免れない。早いうちに見切りをつけ、金目のものを奪って逃げてしまうというのは彼等からすれば当然のことであろう。

何日経ったろうか。ユーミルが部屋から出てくると家具はひっくり返され、金目のものは奪われ、家族との思い出の詰まった品物も奪われ、この家は見る影も無くなってしまった。

「負けるとは…… こういうことか……」

屋敷の庭から領地を眺める。ファウルの民達も今日は働いているようだ。領主の死も、悲劇として消費され、ひとしきりしゃぶり尽くされたら忘れ去られる。次に消費する悲劇は残されたユーミルの末路といったところか。自嘲気味の笑いが溢れてくる。これからどうするべきか、何をしたら良いのか、それを今まで示してくれていた父上が、いや、この家が無くなってしまった。だから、呟いてみる。自分の中で考えるとっかかりのない事柄は、とりあえず誰かに聞いてみる。

「ねぇ、君ならどうする?」

彼はまだ見ぬ、湖岸に腰をかけ脚を水につけて遊ぶ少女を思い浮かべてみる。彼女に聞いてみる。当然答えはない。彼女は答えてくれない、誰も答えてない、父上も母上も兄上も、誰も誰も答えてはくれない。ユーミルは家族を失なってからはじめての涙を流した。ひとしきり泣いて、また部屋に引き込もる。そして、彼は家に残っていた僅かな食糧で食いつないで失意の日々を送る。

そして、ある朝、

「戦場へ行こう。仇を取ろう。負けて死んでしまうのならば、それでも良い……」

と、思い立つ。父上の亡骸を運んできた名馬、ヴァーミリオンの誇りに跨って散ろう。ユーミルは厩に足を運ぶ。

そこには、蛆にたかられる痩せ細った馬の死体が有った。そう厩務員のお爺もヴァーミリオンを見捨てて逃げてしまったから馬が餓死したのだ。それだけの話。