シード あすはぴば
アスランの同居人は、季節だけは感じるが、日付というものに躊躇しない。
つまり、本日が、何年何月何日であるかということはわからないという、のんきな人だった。
もちろん、キラの同居人は、何年何月何日であるかということは、認識しているが、それが、己の生誕日であるということは、すっかりと忘却の彼方にある。
同居人の誕生日だけは、絶対に忘れない。たぶん、アスランは、一緒に年を取ったつもりらしい。
アスランの同居人は、ぷちひっきーなので、ほとんど外出はしない。
欲しいものがあれば、アスランにメールするか、ネットショッピングで、どうにかできるので、敢えて、出かけなくてはならないという用件は、日常的にはない。
ガーガーと、部屋に掃除機をかけて、洗濯物を畳む。
それから、適当に夕食の準備なんてものをしていると、アスランの同居人の一日は終わるのだ。
活動時間の合間に設けている休憩時間が、普通の人間よりも長いので、昼寝をすると、すでに、日が落ちていることだってある。
「あ、しまった。寝過ぎだ。」
すっかりと暗くなった室内で、キラが目を覚ます。
朝から、唐突に、友人の歌姫が顔を出したので、ちょっと疲れてしまったのが原因だ。
とても元気な人なので、少々壊れているキラには、そのオーラだけでも真夏の直射日光に晒されるのと同等の効果がある。
とても忙しい人でもあるから、ちょっとお茶をして世間話なんかするだけで帰ってしまった。
なぜだか、キラの左手首に、真っ赤なリボンを派手に巻いて、
「本日、日付が変わるまで、けっして取ってはいけませんよ、キラ。」
と、真剣に睨んでいたので、手首には、だらりと、そのリボンが垂れ下がっている。
「なんの余興だったんだろう、これは。」
歌姫も、かなり変わった人なので、いきなり、変わったことをするのは日常茶飯事だ。
だから、キラも気にしていない。
汚さないように、気をつけて一連の家事をこなした。
「うーん、何にしようかなあ。そういや、ラクスが、デリバリーをくれたっけ。」
プチヒッキーなキラのために、歌姫が手土産にしてくれるものは、食べ物が多い。
「本当は、キラにだけ召し上がっていただきたいのですけどね。余計なものの口に入るのが、口惜しいですわ。」
「・・・それ、アスランのことだよね? 」
「他に誰かおりました? 」
「いや、いないけどさ。元婚約者なんだから、その言い方も、どうかと思うんだけどね、ラクス。」
「すいません、キラ。わたくしは、あなたの前では嘘をつきたくありませんの。」
「・・そう?」
「はい、そうです。また、参りますわ。」
よくわからない会話の応酬で、ラクスは帰ってしまった。とりあえず、本日の夕食は確保した。
後は、キラの同居人が、いつ帰ってくるかだけの問題だ。
とりあえず、洗濯物を畳んでしまおうと、キラは、それらをベッドへ運び、そこで作業を開始した。
キラの同居人は、いつものように執務室で書類と格闘していた。
いつもと変わらないことだから、アスランも、いつものように書類を処理している。
ふいに、執務室のインターフォンが鳴った。
「俺だ。」
なんとも不遜な言葉だが、こんなことを言うのは、一人なので、ロックを解除する。
やはり、銀髪にアイスブルーの美人が入ってきた。
「あれ? ひとりか? イザーク。」
「ああ、ディアッカなら、機体整備のほうへ出向いている。・・・これ、キラに、だ。」
とんっと丁寧に、白い箱が置かれる。どう見ても、それは、ケーキの箱にしか見えない。
「なんだ? キラにお勧めでも、発見したのか。」
イザークは、甘いものが好きならしく、そこいら辺りで、アスランの同居人と好みが共通している。
だから、プチヒッキーなアスランの同居人のために、こうやって、新作を届けてくれるのだ。
「まあ、そんなところだ。」
「ありがとう、キラが喜ぶよ。だが、おまえか、これを持って、キラを訪問してやってくれればいいのに。」
「いつもはそうしているが、今回は別だ。それより、それは、あまり日持ちがしない代物なので、今夜中に、食べてしまってくれ。」
「え? 今夜中かぁ。 微妙だなあ。」
最近の帰宅時間は、基本が深夜枠、ひどいと午前様だ。
別に、アスランの同居人は、昼寝時間で調整してくれているから、いつ帰ろうと、ちゃんと出迎えてくれ
るが、本日中と言われると、かなり難しい。いくらなんでも、夜食の後で、ケーキなんていうのは、甘党
でないアスランは遠慮したい選択肢だ。
「立て込んでいるのか? 」
「まあな、いつものことさ。俺が暇にしているように、みんな、思うんだろう。」
「なら、たまには早く帰れば、どうだ? どうせ、その書類を片付けたところで、新しいのが配達されるだけだろ? 」
生真面目なイザークらしくない言葉だが、実際問題としては、そういうことだ。
ここにあるものを処理すれば、次の仕事が送られてくる。これが終わらなければ、そんなに切羽詰ったものは依頼されないはずだ。
「確かに、そうだな。それほどに、お勧めなわけだ。」
「まあな。とりあえず、今日は帰れ。それを、キラに食べさせるほうが重要だ。」
「おまえの口車に乗せてもらおう。」
整理していた書類の束の上に、重石をすると、アスランは、室内の片付けに入る。
それを、横目にして、イザークは、「じゃあな。」 と、部屋を出て行った。
たまに、早く帰るのだから、何か欲しいものでもないだろうか、と、同居人にメールした。
しかし、返事がない。また、延長した昼寝でもしているのだろうか、と、気にしながら急いで戻る。
マンションに帰りついたら、やっぱり、キラは昼寝をしていた。
洗濯物を畳んでいて、そのまんま沈没したらしく、ベッドの上で、畳んだ洗濯物と一緒だった。
「ただいま。」
声をかけたぐらいでは、起きない。
アスランの仕事の都合で不規則な生活をさせているので、とりあえず、睡眠時間を小刻みに確保している
らしい。
最近、深夜枠の帰宅が続いていたから、通常の夜という時間が、キラには昼寝時間になっている。
とりあえず、着替えて食事の準備をしておこうと、台所へ赴いたら、冷蔵庫に、デリバリーが入ってい
る。
歌姫がやって来たのだろうという予想はついた。それらを温めて、同居人を起こした。
「おかえり、あれ? まだ、こんな時間じゃないか。」
「うん、たまには早めの帰宅ってやつ。」
「ああ、食事は・・・」
「温めたよ。ラクスだろ? 」
「うん。」
ごしごしと目を擦っているキラの手首が、ひらひらとしている。
そこには、深紅のリボンが巻きついている。
「それは、なに? 」
「さあ、なんだろうね。ラクスが日付が変わるまで外すなって、ご命令でさ。なんかのおまじないだろ? 」
「ふーん、よくわからないな。」
とりあえず、外すなということだから、アスランがキラを起こして居間へと移動した。
ふたりして、食卓を囲んで、久しぶりに、のんびりと食事をした。
忙しくて、会話ができなかったから、ふたりして饒舌だった。
なんだかんだと話して笑って、デザートの時間になった。
つまり、本日が、何年何月何日であるかということはわからないという、のんきな人だった。
もちろん、キラの同居人は、何年何月何日であるかということは、認識しているが、それが、己の生誕日であるということは、すっかりと忘却の彼方にある。
同居人の誕生日だけは、絶対に忘れない。たぶん、アスランは、一緒に年を取ったつもりらしい。
アスランの同居人は、ぷちひっきーなので、ほとんど外出はしない。
欲しいものがあれば、アスランにメールするか、ネットショッピングで、どうにかできるので、敢えて、出かけなくてはならないという用件は、日常的にはない。
ガーガーと、部屋に掃除機をかけて、洗濯物を畳む。
それから、適当に夕食の準備なんてものをしていると、アスランの同居人の一日は終わるのだ。
活動時間の合間に設けている休憩時間が、普通の人間よりも長いので、昼寝をすると、すでに、日が落ちていることだってある。
「あ、しまった。寝過ぎだ。」
すっかりと暗くなった室内で、キラが目を覚ます。
朝から、唐突に、友人の歌姫が顔を出したので、ちょっと疲れてしまったのが原因だ。
とても元気な人なので、少々壊れているキラには、そのオーラだけでも真夏の直射日光に晒されるのと同等の効果がある。
とても忙しい人でもあるから、ちょっとお茶をして世間話なんかするだけで帰ってしまった。
なぜだか、キラの左手首に、真っ赤なリボンを派手に巻いて、
「本日、日付が変わるまで、けっして取ってはいけませんよ、キラ。」
と、真剣に睨んでいたので、手首には、だらりと、そのリボンが垂れ下がっている。
「なんの余興だったんだろう、これは。」
歌姫も、かなり変わった人なので、いきなり、変わったことをするのは日常茶飯事だ。
だから、キラも気にしていない。
汚さないように、気をつけて一連の家事をこなした。
「うーん、何にしようかなあ。そういや、ラクスが、デリバリーをくれたっけ。」
プチヒッキーなキラのために、歌姫が手土産にしてくれるものは、食べ物が多い。
「本当は、キラにだけ召し上がっていただきたいのですけどね。余計なものの口に入るのが、口惜しいですわ。」
「・・・それ、アスランのことだよね? 」
「他に誰かおりました? 」
「いや、いないけどさ。元婚約者なんだから、その言い方も、どうかと思うんだけどね、ラクス。」
「すいません、キラ。わたくしは、あなたの前では嘘をつきたくありませんの。」
「・・そう?」
「はい、そうです。また、参りますわ。」
よくわからない会話の応酬で、ラクスは帰ってしまった。とりあえず、本日の夕食は確保した。
後は、キラの同居人が、いつ帰ってくるかだけの問題だ。
とりあえず、洗濯物を畳んでしまおうと、キラは、それらをベッドへ運び、そこで作業を開始した。
キラの同居人は、いつものように執務室で書類と格闘していた。
いつもと変わらないことだから、アスランも、いつものように書類を処理している。
ふいに、執務室のインターフォンが鳴った。
「俺だ。」
なんとも不遜な言葉だが、こんなことを言うのは、一人なので、ロックを解除する。
やはり、銀髪にアイスブルーの美人が入ってきた。
「あれ? ひとりか? イザーク。」
「ああ、ディアッカなら、機体整備のほうへ出向いている。・・・これ、キラに、だ。」
とんっと丁寧に、白い箱が置かれる。どう見ても、それは、ケーキの箱にしか見えない。
「なんだ? キラにお勧めでも、発見したのか。」
イザークは、甘いものが好きならしく、そこいら辺りで、アスランの同居人と好みが共通している。
だから、プチヒッキーなアスランの同居人のために、こうやって、新作を届けてくれるのだ。
「まあ、そんなところだ。」
「ありがとう、キラが喜ぶよ。だが、おまえか、これを持って、キラを訪問してやってくれればいいのに。」
「いつもはそうしているが、今回は別だ。それより、それは、あまり日持ちがしない代物なので、今夜中に、食べてしまってくれ。」
「え? 今夜中かぁ。 微妙だなあ。」
最近の帰宅時間は、基本が深夜枠、ひどいと午前様だ。
別に、アスランの同居人は、昼寝時間で調整してくれているから、いつ帰ろうと、ちゃんと出迎えてくれ
るが、本日中と言われると、かなり難しい。いくらなんでも、夜食の後で、ケーキなんていうのは、甘党
でないアスランは遠慮したい選択肢だ。
「立て込んでいるのか? 」
「まあな、いつものことさ。俺が暇にしているように、みんな、思うんだろう。」
「なら、たまには早く帰れば、どうだ? どうせ、その書類を片付けたところで、新しいのが配達されるだけだろ? 」
生真面目なイザークらしくない言葉だが、実際問題としては、そういうことだ。
ここにあるものを処理すれば、次の仕事が送られてくる。これが終わらなければ、そんなに切羽詰ったものは依頼されないはずだ。
「確かに、そうだな。それほどに、お勧めなわけだ。」
「まあな。とりあえず、今日は帰れ。それを、キラに食べさせるほうが重要だ。」
「おまえの口車に乗せてもらおう。」
整理していた書類の束の上に、重石をすると、アスランは、室内の片付けに入る。
それを、横目にして、イザークは、「じゃあな。」 と、部屋を出て行った。
たまに、早く帰るのだから、何か欲しいものでもないだろうか、と、同居人にメールした。
しかし、返事がない。また、延長した昼寝でもしているのだろうか、と、気にしながら急いで戻る。
マンションに帰りついたら、やっぱり、キラは昼寝をしていた。
洗濯物を畳んでいて、そのまんま沈没したらしく、ベッドの上で、畳んだ洗濯物と一緒だった。
「ただいま。」
声をかけたぐらいでは、起きない。
アスランの仕事の都合で不規則な生活をさせているので、とりあえず、睡眠時間を小刻みに確保している
らしい。
最近、深夜枠の帰宅が続いていたから、通常の夜という時間が、キラには昼寝時間になっている。
とりあえず、着替えて食事の準備をしておこうと、台所へ赴いたら、冷蔵庫に、デリバリーが入ってい
る。
歌姫がやって来たのだろうという予想はついた。それらを温めて、同居人を起こした。
「おかえり、あれ? まだ、こんな時間じゃないか。」
「うん、たまには早めの帰宅ってやつ。」
「ああ、食事は・・・」
「温めたよ。ラクスだろ? 」
「うん。」
ごしごしと目を擦っているキラの手首が、ひらひらとしている。
そこには、深紅のリボンが巻きついている。
「それは、なに? 」
「さあ、なんだろうね。ラクスが日付が変わるまで外すなって、ご命令でさ。なんかのおまじないだろ? 」
「ふーん、よくわからないな。」
とりあえず、外すなということだから、アスランがキラを起こして居間へと移動した。
ふたりして、食卓を囲んで、久しぶりに、のんびりと食事をした。
忙しくて、会話ができなかったから、ふたりして饒舌だった。
なんだかんだと話して笑って、デザートの時間になった。