シード あすはぴば
「イザークからの新作。」
箱の中身は、フルーツがふんだんに盛られた丸いタルトがふたつ。
「珍しい。イザークってさ、生クリーム信望者なのに。」
「これなら、俺でも食べられそうだ。本日中に、お召し上がりください、なんだって。」
「これなら、ストレートの紅茶より、ミルクティーだね。確か、ラクスが、アッサムをくれたから淹れるね。」
ひらひらと揺れるリボンを視界に入れながら、アスランのほうは、ケーキを盛る皿を用意する。
「熱湯に気をつけろ。」
なんていう、いつもの注意を吐き出して、「うるさいっっ。」 という返事が聞こえて、アスランは、ほっと安堵した。
ここのところ、こんな簡単な応酬もしていなかったのだ。
「なんか、こういうまったりとした時間って、いいね。」
ケーキを食べ終えて、アスランの同居人が、微笑んだ。
ここのところ、軽い食事をして、シャワーを浴びて眠るだけという慌ただしい時間配分になっていた。
ゆっくりと会話を楽しんで、デザートを食べて、まだ眠るまで時間があるのは、久しぶりだ。
「悪いな。俺、要領が悪いんだろうな。」
「まあ、人手不足なんだと思うよ。」
実際、戦後の復旧なんてものは、最短でやるべきものだし、その負担が、どうしても、トップエリートに傾くのは仕方がないと、キラだって納得はしている。
「それはそうなんだけどさ。休日以外にも、こういう時間は必要だと思った。」
「なら、たまには早く帰れるようにしたら? 」
「そうするよ。イザークが、ちょっとしたコツを教えてくれたからね。」
ついつい、目の前の仕事を片付けることに集中してしまう。
だが、本当は、こんな時間のほうが、アスランの同居人には必要で、アスラン自身にも必要だ。
時間をかけて、ゆっくりと心の瑕を癒しているアスランの同居人は、クスリだけで治癒することはない。
誰かと会話したり、ゆたりとした時間を共有することのほうが、クスリよりも効くはずだからだ。
「このリボンって、風呂でもつけておくべきなのかな? 」
「日付が変わってから、風呂に入ればいいだろ? 」
「せっかく早く眠れるんだよ、なんで、深夜まで起きてなきゃいけないのさ。」
「いや、たぶん、明日の朝になるんじゃないかな。」
クスクスと、キラの同居人は、立ち上がって、となりのキラを抱き上げる。こういうことも、久しぶりだ。
触れ合いたいと思っても、できなかったのだ。
これは治療にはならないな、と、苦笑しつつ、寝室へ歩き出す。
「裸体にリボンだけって、裸エプロンと同じ効力があると思う。」
「バカだろ? アスラン。」
「うん、おまえの関してだけ、バカだ。」
「僕も、ちょっと飢え気味かも? 」
「じゃあ、存分に満たされてください、キラ・ヤマトさん。」
「はいはい、アスラン・ザラさんも満腹してください。」
ふたりして、大笑いして、ベッドへ雪崩れ込む。
アスランの同居人は、季節だけは感じるが、日付というものに躊躇しない。
つまり、本日が、何年何月何日であるかということはわからないという、のんきな人だった。
もちろん、キラの同居人は、何年何月何日であるかということは、認識しているが、それが、己の生誕日で
あるということは、すっかりと忘却の彼方にある。
だから、周りの人間が、ささやかな贈り物をした。
けれど、ふたりは気付かないままだけったけど、それに幸せは感じたらしい。