Radiant Days~Love so sweet
祓魔師を目指す訓練生たちが通う祓魔塾――。
それは対悪魔との闘いを学ぶべき場所であり、講師として導くものたちもまた、祓魔師として日々活動するものたちが存在する場所である。普通の人間には決して足を踏み入れることの出来ぬその場所へ向かう方法は、ただ一つ祓魔師としての道を選ぶこと――。
だが、並の決心では耐えられるものではない。
何故なら人ならざる者であり、もう一つの世界虚無界より訪れる悪魔から人々を護るために命を賭して闘う使命を負う者たち。
――それが祓魔師である。
強く揺ぎ無い心がなければその扉を開くことは叶わない。
それらすべてを乗りこえ、新たに祓魔師たちを目指すもの達が今年もまた祓魔塾へと入学を果たしたのだった。
*****
「永智くん、知ってる?」
祓魔塾の一室。古びた教室の中、長机が等間隔に並ぶ。
その一つに腰かけた少年は二人。一人は栗色の髪を持つ少年。そして今しがた永智と呼んだ水色の髪の少年。
彼ら二人はまさしく祓魔師となるため、ここにやってきた者たちだ。
「ああ?何だよ?」
親友である日向の含みを持った問いかけに永智は眉をしかめた。日向とは幼稚園からの付き合いだからもう十年を超える仲である。お互い、自分以上に互いの性格を知り尽くしているといっても過言ではない。
にこにことやたらと笑顔の時の奴が問いかけてきた時は大抵碌でもない内容か、厄介事に巻き込まれることが常である。ここは早々に耳を塞ぐべきであると夢の中に去ろうと机に伏した時だった。
ばしりと頭に強烈な痛みが走って反射的に立ち上がっていた。じんじんとする痛みに頭を抑えれば、視界に入ったのは親友が持つ分厚い辞書だった。
たしか、入学式(通常の高校)の後、教科書と共に購入したものではなかったか。
それが何故ここにある?
いやいや、それよりもこの頭の痛みの原因は――考えたくもないが――紛れもなく日向が持つ分厚い辞書に他ならないだろう。
「~~~~~ってめ! 何しやがる!」
辞書を片手に持ったままへらへら笑い続ける親友の襟元を締め上げ心ゆくまま睨みつける。
「わあ、永智くん、苦しいって~~」
「馬鹿か、お前は! 締めてんだから当たり前だろうが!」
幾度か揺さぶると、限界とばかりに白旗を上げた日向は机の上にへたり込んだ。さっきまでのへらへらは無くなりはしたが、上機嫌な様は変わりない。
そのことに永智は首を傾げた。
ここまで機嫌がいい親友など見たことがない。
「日向? ――なんかあったのか?」
「ん~?あ、うん。もう嬉しくてさ」
「何がだ?」
「だって僕らあの先生に学べるんだよ?」
「あの先生?」
「うん」
そう言ったきり、またへらへらと笑いだす。まるで締まりのない伸び切ったチーズのようだ。
人と意思疎通をはかりながら会話するという至極一般的なことが出来ない日向との会話はいつもこうだ。
自分は分かっていてもこちらとしてはさっぱりわけが分からない。彼に何度諭しても結局解決したためしは残念ながら一度もない。直す気がないのかそれとも本当に理解していない馬鹿なのか、永智には判断できない。
そこでしっかりと教育でも何でもすればいいのだろうがそれは十五の少年である。こいつはこういう性格なのだと割り切る方が容易い。
「で、何が嬉しいんだ? でもって、その先生ってのはなんだ?」
意味が分からないのであれば、聞けばいいのだ。全部一つずつ。
「え? 知らないの、永智」
「だから、何が」
「だから、先生」
「だから、先生がどうしたんだよ。さっきだって担任と会ってただろ?」
「え、そっちじゃないよ?」
「そっちってどっちだよ?」
「だから、僕らの先生だって」
「~~~~だから! その先生ってのは何なんだよ!」
「だから……」
日向の声に被るように扉の開く音が響く。
そうして現れたのは漆黒のロングコートを纏った青年。
短く切りそろえられた黒髪とその下から覗く瞳は澄んだ蒼。彼が現れた途端、さっきまで教室を覆っていたざわめきが一瞬のうちに消える。
「おら、席につけ。授業はじめるぞ」
背を伸ばし颯爽と教壇に向い歩く。
その姿に永智は息を飲んだ。
ぴんと空気が張り詰めているように感じる。けれど、重いものではなく澄みきった湖のように深いもの――。
誰だ?といぶかしんだ永智をよそに傍に座る日向が小声で囁く。
『さっき言ってた先生の一人だよ!』
小声だが、やたらとテンションの高い親友に永智はますます首を傾げる。
『は?』
『~~~だから!』
「おい、そこ静かにしろ」
はっと顔を上げると蒼い瞳と視線がかち合った。
反射的に「すみません!」と謝っていた。
頬に熱が集まってゆく。
その理由が分からなくて永智は内心首を傾げるしかない。教師にしかられた経験なんてざらにある。だが、何故こんなにも鼓動が早まるのだろうか――。
「って、お前らここに来んのはじめてだもんな。落ち着かないのもよく分かる。まあ、適当に力抜いてろ。じゃないと疲れるぞ?」
さっと周囲に目を走らせれば、近くにいた女子たちの顔は真っ赤に染まっていた。それは隣の親友も同じだった。相変わらずへらへらと笑っているがその頬は微かに赤く染まっていた。
日向だけじゃない。
自分以外の生徒たち全員が今目の前にいる青年を夢中になって見つめている。
(何なんだ、いったい?)
「お前たちはこれから祓魔師となるために此処で学ぶことになる。俺は奥村燐。一応講師で担当は剣技だ。よろしくな!」
それが最強と噂される祓魔師との出会いだった――。
作品名:Radiant Days~Love so sweet 作家名:sumire