Radiant Days~I missed you~
「燐せんせ~!これ分かんない~!」
「だから、それはさっき説明しただろうが!」
「杏ばっかりズルイ!先生!こっちも見て下さい!」
「あ~、分かった分かったから!そんなに怒るな!」
「燐先生、こっちはこれであってます?」
「あ!先生、俺も!俺も分かんない!」
「順番に回るから、座って待ってろ!」
「せんせー、もう十分過ぎてますよ~?早く質疑応答に移って下さ~い」
「えー!お前だけじゃん、出来てんの!」
「うるさいわね!あんたとは頭の出来が違うのよ!」
「んだと!このヤロー!やろうってのか!」
「は!望むところよ!」
「いい加減にしろ!喧嘩するなら放り出すぞ!」
「ええ!やだ~~!」
「それだけはマジ勘弁して!」
「燐先生、おなかすいた~!」
「あ!あたしも!」
「本当だ~、確かにずっと問題といてたもんね」
「つか、太ってもしらねーぞ?――あ、せんせ、俺も腹減った」
「僕も~!おなか空き過ぎて死ぬ~」
「お前はアホか!こんくらいで何へばってんだよ?」
「ええ~酷い永智君~」
扉を開けた瞬間、聞こえてきた賑やかな声に雪男は面食らった。呆けたままリビングの扉を開けると、見えたのはテーブルを囲む塾生たちの姿と恋焦がれて止まない恋人の姿だった。塾生たちの前には積み上げられた本が山となって連なっている。雪男に気付くと全員がそろって「おかえりなさい!」と声をかけてくる。その声に戸惑いつつも笑顔を返す。雪男の傍までやってきた恋人は苦笑いしつつ微笑んだ。
「おかえり、雪男。帰って早々、煩くてごめんな」
「いや、構わないけど。どうしたの?」
問いかけた雪男に恋人は益々困った顔で騒ぎ続ける塾生を指差した。そしてワザとらしく大きな溜息をついて見せる。
「こいつら、俺が任務でいない間講義を尽くサボってたらしい。任務の報告に行ったらメフィストに怒られるわ、他の先生から泣きつかれるわ散々だぜ」
恋人の言葉に呆気にとられる。その罰として、サボった講義の講師たちから大量の課題が出されたらしい。彼が受け持つこのクラスの塾生たちは授業態度も真面目で熱心だと講師の間では有名である。全員が講義を放棄するなど考えられない。雪男が戸惑いながら言えば、返ってきたのは騒ぎの原因たる塾生からだった。恋人は益々困り顔で肩を竦めた。
「――だって、燐先生がいないんだもん」
「先生がいないと何かやる気でなくて」
「つい足が向かなくて」
次々と出てくる言い訳に目を丸くする。
「何が、ついだ!まったく!ちゃんと反省してるのか?」
恋人が腕を組みながらいえば、全員が声を揃えて頷く。まるで、小さな子供が駄々をこね、母親を困らせているようなそんな光景に雪男はとうとう噴き出した。
「――雪男?」
恋人が怪訝な顔をして見つめてくるが、どうにも笑いが止まらなくて、雪男は肩を震わせ笑い続けた。彼らも自分と同じなのだ。大好きな人に会えないのが寂しくて構ってほしくて――。そこまで想われている恋人が誇らしく、同時に妬けてくる。自分だけの恋人を取られてしまったようなそんな悔しさ。恋人は本当に多くの人を無意識のうちに惹きつけ、いつの間にか魅了してしまう。それが恋人の良いところであり、悪いところでもある。雪男は何とか笑いをおさめると積み上げられた課題の一つを手に取り、にっこりと微笑んだ。
「兄さんだけじゃ大変だろうから、僕もてつだうよ。――ほら、皆、止まってないでさっさと手を動かす」
「雪男?」
「兄さんは夕飯の準備をお願い。どうせ、今のままじゃ夜になっても終わらないだろうし」
恋人を促せば、驚いた表情をしながらも最後には笑って頷いてくれた。魔神の炎を受け継ぐために嫌悪されることも未だ多い。それでも、ここにいる塾生たちは心から恋人を慕っている。それが、素直に嬉しい。
自分たちのやりとりを呆けながら見つめていた塾生たちを手を叩くことで促す。はっと我に返った生徒たちが課題に取り組む様子を見守りながらキッチンに立つ恋人を見つめる。昔の彼はいつも一人だった。そんな姿を神父は憂いていた。
――でも。今は。
「あ!せんせ~!グリンピースは入れないでね!」
「はいはい」
「俺、ハンバーグ食べたい!」
「分かった、分かった」
「デザートはプリンがいいです!」
「あ!私はジェラート!」
「それより、すき焼食いたい!」
「~~~~いい加減にしろ!お前ら!そんなことよりさっさと課題に取り組め!」
響いた怒声と笑い声。雪男もいっしょになって声を上げて笑った。此処は、とてもあたたかくて、優しい空気に満ちている。もう、彼は一人じゃない。
(――神父さん、見てる?兄さんはこんなにも皆に好かれてる)
たくさんの笑顔の中心に立つ燐の姿を見つめ、雪男は心の中で囁いた。
そんなある日の日常。
END
作品名:Radiant Days~I missed you~ 作家名:sumire