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儚いもの

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 『カラスの巣』へと帰る途中。
 ウォルターがふっと気が付くと、前を歩いていたはずのアンディがいない。忽然と姿を消している。道は角を曲がってちょうど広く真っ直ぐな大通りに出たところで、前方にアンディの姿がないのはおかしい。
「アイツ、また……!」
 ウォルターはチッと舌打ちする。そして駆け出した。
 きっと自分の判断で勝手にどこかの細い道に入ったのだ。アンディは、頼りになればいいがならないカンで歩いたり、気をひかれたものに近付いていってしまったり、その気が途中で変わったりしてしまう。ものすごい方向オンチなのだ。
「ったく、シャルルもいるってのに……!!」
 連絡・監視兼ナビゲーターのロボットがついていながらどうして。
 最後に見たときに、シャルルはアンディの肩に乗っていたから、道を間違いそうなら注意してくれそうなものなのに。もっとも、あのアンディがそれを素直に聞くかどうかは微妙だが。もちろん反抗ではなく、単純に『聞くかどうか』の問題で。とはいえ、シャルルには最終手段……くちばしでズコッとつつく……が用意されているわけだから。
 まあ、だから、迷ったとしたって、シャルルが一緒なら心配はないけれど。だが、そのシャルルが一緒で、どうして道を間違えたのか、そう思うと……。
 もしかしてシャルルとさえはぐれた?
 ……いや、だとしても……。
 三番目の曲がり角を覗き込んだとき、ウォルターはシャルルの姿を見つけてホッとした。


作品名:儚いもの 作家名:野村弥広