儚いもの
「シャルルッ、何やってんだよ!! アンディはっ……?」
軽くなじるように言うと、崩れた塀の上にじっととまっていたカラスは、無言で羽を片方広げて、ある方向を指差した。
「! 教会か……」
朽ちかけた建物。何があったのかボロボロだ。誰も通いはしないし、それ故に直されもしないのだろう。頂きにある十字架が、孤独に天を指している。それで教会だとわかる程度。ほとんど瓦礫と煉瓦の山だが、その十字架と……後方からの光にまぶしく輝き、地面に光を踊らせる、はめこまれたステンドグラスだけが。
「……あれは『受胎告知』か」
青い衣をまとってゆったり腰かけている女性と、その前にひざまずく、黄色い衣をまとった翼を生やした天使。その手には白い百合。
「詳しいな」
ひと目でそれとわかり、口にしたウォルターに、シャルルが反応する。横目で教会の方を見やりながら、感心したような口振りで言う。
「ウォルターはむかし教会に通っていたんだったか。さすがだな」
「よせよ」
苦い声で遮り、ウォルターは口元に皮肉げな笑みを浮かべる。今や自分は『背信者』だ。
細めたその目には、ステンドグラスの前にたたずむ、赤いコートの小柄な後ろ姿も入っていた。
ちらちらと舞い踊る、青や緑や黄色、白。そして、赤。
ウォルターはゆっくりとそこに近付く。
アンディの淡い金色の髪は、光の中で天使のまとう黄色の衣の色と溶け合うようにして……。
消えてしまいそうだ。後にはRRのコートしか残らない。それと武器の入ったカバンと……。
……悪い冗談だ。
眉をひそめて隣に立ち、見下ろす。気付いているのかいないのか、一向にウォルターを振り向かないで、一心にステンドグラスを見つめるアンディに、そんな気にさせられたのだろうか。どこか儚く、手が届かない遠くへ行ってしまう者を見るような、不安な気持ちに。
祈るようにステンドグラスを見つめるその横顔は、今にも飛び立とうと空を見据えている鳥を思い出す、切なさで。
……ありえない。そんなことは、そんなのは。
アンディはただステンドグラスを見ているだけだ。
ウォルターは曇った顔を無理やり晴れさせ、自身もまたステンドグラスを見上げる。浮かべた軽い笑みは皮肉げなもので、その目はうさんくさいものでも見るように細められていたが。
こんなもの見て、なんになるのかね。
そんな内心が、ふうというため息に変わる。
アンディが、さっと振り向いた。