儚いもの
「シャルルが待ってるからそろそろ行くぞ」
ずしっとよりかかって言うと、アンディが『重い』とうめく。
そんなふたりの頭上を、シャルルが飛んだ。
正確にはウォルターの頭をめがけて飛んできたのだが、一瞬早くウォルターが頭を低めたのだ。
早めに気付いて行動をとっていたので、頭にくちばしが刺さることを回避できた。
「いつまでのんびりしてるんだ、ふたりとも!! もう待てないぞ!」
アンディから退いたウォルターが『待ってなかったじゃん』と文句を言う。
いや、それまでは確かに『待って』いたのだろうが、今のは問答無用のくちばしだったじゃないか、と。
アンディが頭上のシャルルを見上げて、ぽかんと口を開ける。だが、何の弁解も、またステンドグラスに対する未練も見せず、あっさりと踵を返す。まるで何を見ていたのか忘れてしまったかのように、あっさりと。
「はいはい」
ウォルターもそれに続いて、踵を返す。
ふと、その足を止める。
何故かふたりの向きが違う。
ウォルターは元来た方向にきちんと足を向けていたが……。
『あれ?』と振り返ると、あさっての方向へアンディがスタスタと歩いている。
「おいっ、アンディ、そっちじゃ……」
ウォルターが言い終えるより早く、怒りで目を据わらせたシャルルがくちばしをキラめかせ、アンディの頭めがけて急降下していった。
崩れかけた教会。かろうじて残った十字架と、壁にはめこまれたステンドグラスだけが、夕日に照らされて輝いている。
街に銃声が響き渡った。
煉瓦の壁が崩れ落ちる音。その中に、ガシャンとガラスの割れる音がする。
欠片になって、ステンドグラスは飛び散った。色を空にばらまいて。
やがて、ひとつひとつ地に落ちる。きらめきながら、カシャン、カシャン……。
飴玉のように割れて散らばったガラスのかけら。
色とりどりの欠片は、やがて闇に沈んで見えなくなった。
(おしまい)