俺と貴方 君と私
太陽と月
珍しく太陽も昇らない時間に目が覚めた。
身体は昨夜の愛の交合による重だるさを訴えている。
アムロはため息を吐き、視線を目の前にある窓へと向けた。
東向きの空には下弦の月が、熊の爪の様に煌々と昇っている。
それをぼんやりと見つめていると、少しずつ白みゆく空に、月の光は熊の爪から犬の爪へ、犬の爪から猫の爪へと次第に光の強さを薄れさせていく。
「・・・まるで俺みたいだな」
ポツリと誰に言うとも無く零した呟きに、背後から問いかけが齎された。
「何がだね?」
幾分、寝起きの熱を含んだ掠れた声に、抱き込まれていた痩身がピクリと反応した。
「起きてたんだ・・・」
「いや・・・君の呟きに覚醒をさせられただけだ」
「そっか。なら寝なおして」
「無理だな」
「何故さ」
「君の心が寂しげだから・・・」
「・・・・・・貴方に隠し事は出来ないな」
「君限定のニュータイプ・・・だからな。・・・で?」
だんまりを決め込もうとしても、背後の男はそれを赦さないだろう事は長い付き合いで熟知している。
アムロは腕の中で器用に向きを変えると、裸の胸に顔を埋めた。
「月が、俺みたいだなって・・・」
「月が?」
シャアはアムロが見ていたであろう月に視線を向けた。
月は光を薄れさせ、もはや猫のひげの様相を見せている。
「そう。太陽と言う強い光を放つものによって輝く事が出来るのに、その存在が出てきたら消えるしかない。・・・そんな存在だなぁって」
「君が?」
「そっ」
「それを言うなら、私のほうが月だろう?」
「貴方が? まさか!!」
告げられた言葉に驚いて顔を上げると、愛おしさを満面に浮かべたシャアがアムロを見つめていた。
「いや。君と言う稀代のニュータイプが存在して、初めてニュータイプの存在が認識され、君の好敵手だと言われる事により、私が真の意味でクローズアップされたのだよ。そして、君の存在が私を我武者羅に走らせた。君無くして私の存在はなかったのだ」
「・・・・・・・・・」
「君は、私が太陽で自分を月だと思う。私は、君が太陽で自分が月だと思う。互いの存在なくしてはありえない者なのだと、今日という日に再認識したのだな。・・・ありがとう、アムロ」
「何?何で俺に、ありがとうって? それに、今日の日って・・・」
横になった姿勢で器用に小首を傾げる姿に、三十路を迎えたと思えない可愛らしさがある。
シャアはアムロの髪に、額に、頬に口付けを落としながら静かに告げる。
「今日は君の誕生日だろう? 生まれてきてくれてありがとう。私の手を取ってくれてありがとう。こうして腕の中に留まってくれてありがとう」
心に温もりがひたひたと満ちて来る。
アムロはシャアの背中に腕を回して抱きつくと、目蓋を閉じた。
身体に感じる規則的な鼓動
それに癒されながら再びの眠りに落ちていく
“今日は一日、この腕の中で安らがせて”
そう心の中で告げた言葉は、あやまたず相手に伝わったようだ。
髪を優しく撫ぜる大きな手掌に誘われ、アムロは夢の世界へと降りて行く。
「私も一日、君を抱きしめて過ごせる幸せを満喫する事にしよう」
シャアは髪に鼻先を埋め、アムロの香りを胸いっぱいに吸い込むと、アムロの後を追う様に夢の世界へと降りていった。
2011/11/02