世界を統べる者
そうして番人が掌をスザクの額に触れる。その瞬間流れ込んできたのは光の嵐――。頭の中で展開される映像に映っていたのはまさしく先ほど見た皇帝と騎士。見えた光景に息を飲んだ。幼い少年たちを巻き込んだ争い。それは勝者と敗者が決まったと同時に終焉を迎える。だが、彼らは互いの故郷を捨て、身を置いたのは相対する国。それぞれの生まれ故郷だった。帝国に捨てられた皇子と敗戦国最後の首相の息子。彼らが願っていたのはきっと同じなのだろう。もう、誰にも傷ついてほしくない。大切なものを護りたいと手にした力は彼らを敵対関係へと導いた。
過去の記憶からでも分かる互いが寄せる想い――それは確かな恋心に他ならない。彼らは確かに恋人同士だった。だが、それと同時に最悪の敵同士であり、幾度も殺しあった。彼らを引き裂いたのは桃色の髪の姫の死。悲劇としか言いようのない顛末に胸が痛んだ。彼らは確かに愛し合っていた。けれど、皇帝が手にした大いなる力は彼から生きる道を奪い、そして――。スザクは目を閉じると大きく息を吐いた。
「――あいつらは自分たちの犯した罪の責任を取るため、“ゼロ・レクイエム”と呼ばれる計画を実行した。そして、あの騎士は……」
「――あの男は愛する者を手に掛け、そして最悪の汚名をあの皇帝に被せた」
目を開けた先で番人が静かに呟く。その声音は静かすぎて余計に苦しくなる。
みなまで言わなくとも分かる。愛する者を手に掛けた騎士の苦悩がこの空間を生み出したのだ。
「皇帝を絡め捕る糸はあの皇帝を想うもの達の心が具現化したもの」
「厄介だな、あれほどの束は一人二人だけじゃない。あれは一筋縄じゃいかないぜ?」
幾重もの糸に絡め捕られた人がすでにこの世のものではないとスザクにも分かった。すでに死に絶え、魂だけの存在となっている。だからこそ、この歪みは生まれた。生者の世界に死者が留まり続ければ、それは歪みとなって空間を圧迫しはじめる。はじめは小さな棘だが、それはいつしか流れを塞き止め、時の流れすらも止めてしまう。そうなれば世界は未来に歩むその足を止めずにはいられなくなる。
「そうだな、まずは彼を留めている糸を解くか」
番人の声と共に現れた扉の先。そこにかの皇帝をとらえ続ける理由があるのだと番人は言った。