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輪る双子

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『冠葉、起きてよ冠葉』

ん…誰だ?

『冠葉、冠葉ったら』

お前、誰だよ?

『冠葉、僕は冠葉の、』

え?何だよ聞こえねぇ。


伸ばした手はすぐさま求めたそいつに叩き落とされる。
驚いて見上げた先に、澄んだ笑顔があった。

俺はその笑顔が大好きだった。



「冠ちゃん起きて。朝ですよ~」

妹のさえずる様な声に覚醒を促され、重い瞼をゆったりと起こす。

「陽毬…」

「おはよ、冠ちゃん。早く起きて、ご飯もう出来るって!」

にこやかに声を弾ませる陽毬は、そのまま台所に消えていく。
俺は未だ覚醒しきっていない頭でその背中を追い掛けた。

「おはよう冠葉」

あるべき筈の見知った背中はなく、あったのは本来あるべきではない姿。

「母、さん…?」

柔らかく微笑んだのはまさしく母親のそれで、俺は頭を強く殴られたような気がした。
だって、そこに在ってはおかしいのだ。

どうして、おかしいんだ?


「冠ちゃんどうしたの?顔色悪いよ?」

陽毬が心配そうに顔を覗き込んでくるけど、それすら構ってる余裕は今の自分にはなかった。

「どうした冠葉、具合悪いのか」

「親父…」

俺の中を何かが違うと否定しては警鐘を鳴らす。
バクバクと早鐘を打つ心臓が煩い。

「今日は学校休んだ方が…」

「いいんだ陽毬。何ともないから」

「本当?無理してない?」

「ああ、本当に大丈夫だ。それより朝飯出来てんだろ?」

腹減った、と自分を騙して笑うと、陽毬はそれに気付かぬままふわりと微笑んだ。
俺はこれに似た笑顔をよく知っている。それは母親ではない、最も近しい誰か。
それは、誰だ?

「今日はね、お母さんのお手伝いしたの。私がお味噌汁作ったんだよ」

「へぇ。それは楽しみだ」

陽毬の頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。
これが日常、だったはずだ。

『いただきます』

こうやって家族で食卓を囲んで、父も母も妹も、皆笑い合って幸せそうに。
どこにでもある一家族の風景に、どうしてこんなにも違和感を感じるのだろう。

「冠ちゃん、お味噌汁の味どうかな?」

「え?…ああ、美味いよ。母さんの味付けにそっくりだ」

「本当?嬉しいな。もっと頑張って、お母さんみたいに美味しく作れるようになるね!」

「陽毬ならすぐに出来るようになるわよ」

「本当?」

「ええ。母さんの子だもの」

母親と妹の微笑ましい会話は俺の耳には届かない。
母さんの味。本当にそうだろうか。
どうしてもこの全てが偽りに思えて、俺はせっかく妹が作ってくれた味噌汁を味わう事が出来なかった。

作品名:輪る双子 作家名:arit