ゼロス×リナ短編小説集
大切なものには鍵を。
戯れに愛したあの頃。
誰にでもある秘密の恋。
酷い執着。
でも、いつだってそうだ。
彼女は僕の元から滑るように去っていく。
いとも簡単に。
「まるで、自己中心的。子供だな。」
呆れた声が室内に響いた。
ベッドで血の気の引いた少女を大切そうに抱えている男性を目の前に、金髪の男性は節目がちに答えた。
その胸に顔をうずめているその男は、その言葉に少しだけ顔を上げて、部屋の端を見つめる。
その顔には、胸から流れ出たであろう血糊がべっとりと着いていた。
金髪の青年はそれを見て顔をしかめる。
そして、絶望したように涙を流した。
「俺なら愛した女の選び取る道を歩ませてやる!
それに一緒に進む。
それが愛するってもんだ!
でも、リナはお前さんを取ったんだよ。
なのに・・・
その結果がこれなのか?!」
彼は困ったように薄く笑った。
薔薇の色の唇を持っていた少女はもう言葉紡ぎだすことはない。
いつだって、明日に向かって歩いていた希望に満ちる声を持っていた。
でも、その光り輝く声で、愛する者の名前を呼ぶことはないのだ。
でも、それでもかまわない。
だって、僕が殺したんですよ?
「何とか言ってくれ、ゼロス!!」
その悲痛な叫び声は青年には届かなかった。
届く前に、突然無数の刃が空気を切り裂いたからだ。
次の瞬間金髪の青年は倒れていた。
体には、まるでかまいたちにでも襲われたように切り刻まれたようになっていた。
彼ももう二度とその瞳を開けることはないだろう。
なぜって、ガウリイさん。
あなたには僕のことは永遠に理解できない。
金髪の青年の体は、黒い炎に包まれ跡形もなく消え去っていた。
あなたの愛は彼女の自由だったかもしれないけれど・・・
リナさんは僕とともには歩まないと拒否したんです。
僕とともに永遠に生きないと彼女は言ったんです。
人間として生きると。
あの可愛らしい唇で。
「ガウリイさん。
リナさんの最後の赤い瞳の奥には、僕だけを映し出していたのを見たんです。
それが、痛みだろうが、苦しみだろうが、恨みだろうか・・・
リナさんの最後の記憶が僕だったなら、
それこそが僕の愛なのです。」
彼女を誰にも渡さない。
この体は僕が持っていましょう。
僕が作ったあなただけの空間へと。
あなたの魂さえも混沌に返すことはしない。
混沌に帰ってしまったならば、あなたは生まれ変わってしまう。
そして、あなたはまた蝶のように他の場所へとひらひらと飛んでいってしまうでしょう。
それでは全く意味がない。
大切なものは大事にしまって鍵をかけておくべきです。
愛のために殺人を犯すことは罪ですか?
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短編小説でした。
愛する人を殺したら、それは究極の愛なのではないのでしょうか?
愛する人を殺したら永遠に殺した人のものになるんですから。
ガウリイの愛とゼロスの愛はきっと両極にいるのだと思って書きました。
作品名:ゼロス×リナ短編小説集 作家名:ワルス虎