Love of eternity
ANYTIME,ANYWHERE
あの頃、そこに君がいた
ただ一つの想い
それは、真実の恋
1.
運命の歯車が狂いだす、少し前。皆それぞれが別々の道を歩み始める前だった頃だろうか。
シャカは周囲の者たちと一線を引くように自宮に篭るようになり、内なる宇宙との会話(本人は瞑想と称していたが)ばかりするようになっていた。
幼いながらもすでにセブンセンシズに目覚め、他者を圧倒する力を身につけていたシャカ。だが、その体躯は悲しいほどに小さく、やせ細っていた。
年上の者たちも心配して、よく彼の宮を訪れていたし、隣の宮であるということもあり、アイオリアも何かと気をかけて日常生活の援助を行ったり、ただ他愛ない話をするためだけにもよく訪れていた。
色々な理由をつけて構っていたのには幼心にもシャカに惹かれていたからなのかもしれない。
時折ではあるが、不意に浮かべるシャカの微笑が好きだったのだ。シャカの方はといえば、来る者を別に拒んではいない様子ではあったが、それでいて相手を構うこともなく、好きにさせている節があった。
そんなことがしばらく続いたのち、シャカは修行と称してインドに戻っていった。アイオリアは一抹の寂しさを感じながら、シャカがどんな風にインドで過ごしているか気になったけれども、その後に起こったサガの失踪、アイオロスの叛逆によってそれどころではなくなった。
インドの奥地で聖域の変化をシャカは知っているのだろうかと、アイオリアがふと思う事もあったがシャカは修行に集中していたのだろう。聖域に姿を現すことはなかった。
シャカがインドで修行を続けている時、アイオリアはアイオロスの謀反に加担していたのではないかという嫌疑をかけられ、獅子宮と黄金聖衣を剥奪されていた。
一雑兵としての地位に貶められ、屈辱の日々を過ごす。ほどなく、嫌疑は晴れたが、黄金聖衣は戦いの場……つまり教皇の勅命の時のみに着用することを許されたのみで、黄金聖闘士としての地位の復活、獅子宮の守護など決して許されることのないまま、はや数年が過ぎていった。
アイオリアは身の置き所がなくなってしまった聖域において、独りで生きていかなければならなかった。昨日まで親しげにしていた人々の豹変ぶりに戸惑い心傷めても、歯を食いしばりながら誰の手も借りる事なく、精一杯時を過ごした。
いつか聖域に戻って来て、謀反など事実無根であると身の潔白を晴らしてくれるだろう兄の前で、恥ずかしくないようにと。堂々と胸を張って立ていられるように強く生きて行こうとアイオリアは固く、心密かに誓ったから。
白羊宮、双児宮、獅子宮、処女宮、天秤宮、人馬宮の守護者の不在は聖域の守護が手薄となるということで、教皇はインドよりシャカを呼び戻したと風の便りにアイオリアは聞いた。
一時的な帰国というわけではなく、インドでの修行を終えさせ、教皇は完全に処女宮の守護を命じられたとのことである。
あまり黄金聖闘士と接することの少ない雑兵たちの間では、教皇は見目麗しい乙女座にご執心だとか、それなのに10年経ってなお、拠点を聖域に戻す気配のない乙女座に業を煮やして無理やり攫ってきただとか、根も葉もない噂さえも立っていたが。
教皇も乙女座も知るアイオリアからすれば、そんな馬鹿なことはあるはずないと判りきっていたことである。だが、何かの折に乙女座を見たという雑兵の一人が夢見心地に語るシャカ像に正直興味を抱かないでもなかった。
しかし、以前と違って容易に会える相手ではないことをわかっていたし、また興味を持ったとしても、会いたいとも思わなかった。いや、このような立場で会う事など、己のプライドが許さなかったのだ。
シャカは黄金聖闘士のものでさえ、低く見ている節があった。それが雑兵のような立場であるともなれば、言うに及ばない。他の黄金聖闘士同様、いやそれ以上にアイオリアを見下すのであろう。
しかし、アイオリアの危惧したことは杞憂であると思った。元々シャカは処女宮からあまり出歩くようなことはしなかったのだから。十二宮にアイオリアが近づきさえしなければバッタリ出くわす、ということなどないのだ。
そんな心の油断もあったためか、思わぬ場所で再会する羽目になろうなどとこの時のアイオリアは露とも思わなかった。
作品名:Love of eternity 作家名:千珠