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Love of eternity

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4.

 祝詞のような美しいソプラノの歌声が夕闇の静けさの中、響き渡った。
 少しずつ重なる歌声の旋律の美しさに耳を傾ける。

 一瞬途切れた歌声。

 沈黙の闇を突き抜けるように空気を大きく振動させ打ち響く銅鑼。
 シャラン…シャラン…。
 清らかな鈴の音を響かせて、女官たちが歌を歌いながら舞台へと現われた。ゆっくりと手に持った鈴を鳴らしながら、優雅に踊りだす。
 鮮やかな絢絹の衣が水面のように揺れ、羽のように宙を舞った。少しずつ加わっていく打楽器の音がだんだんとテンポを速め、激しいリズムで打たれる太鼓の低音が腹の底まで響く。

 艶やかな衣装に包まれた女官たちの一糸乱れぬ群舞に心奪われる。

 指先まで研ぎ澄まされた神経が空気を伝ってアイオリアの胸にまで届いた。
 隣に座っているアテナからも「ほうっ……」と感嘆の息が漏れる。すっと歌声が消え、打ち響く太鼓だけが空気を震わす中、今度は勇ましい男たちが姿を現した。
「あ、カミュにムウ…アフロディーテも…あいつら」
 すっとアテナに礼をした後、低音で空気を振動させる太鼓のリズムに合わせて、三人は一分の狂いもなく同調した動きで鬼気迫る見事な剣の舞を舞った。
 時折剣戟を重ね、火花が鮮やかに散る。
 三人とも長い髪を表情豊かに靡かせ、勇ましさの中にも優雅さがあった。
「凄い」
 僅かに頬を蒸気させ、舞台に魅入るアテナにアイオリアも頷いた。紙一重で剣を交わす類稀な技に見惚れていると時間が経つのも忘れるほどである。
 三人の見せ場が終わり、あちこちから拍手が沸いた。
 高揚感のままにアイオリアも大きく手を鳴らしていると、すっと横の席に魔鈴がついた。
「……楽しんでるかい?」
「ああ、最高だ。はじめて目にしたが凄いな」
「そりゃ、よかった。もうすぐ真打登場だよ。楽しみだな」
 穏やかに笑う魔鈴に声をかけようとしたが、再び銅鑼が鳴り、「シッ」と合図されそのまま何も言わずアイオリアは再び舞台へと目を移した。




 静かな音楽の調べにのって、不思議な歌声が響く。
 耳を過ぎる透明で柔らかに包み込むような声。
 紡ぎだされる異国の言葉の意味はわからないまでも、醸し出される声音は甘く切ない。
 胸の奥がじんと熱く、ざわざわと掻き毟られる。
 とても静かな歌であるにもかかわらず、伝わってくるのは……。

―――Pathos.

 薄紅の羽衣が宙に鮮やかに舞う。
 心奪われたあの日のように幻想の中で花開くシャカを見た。


「アイオリア……?」
 傍にいた魔鈴がアイオリアの異変に気付いたがそれ以上は何もいわず、見守った。
 静かに頬を伝って零れ落ちていく滴にアイオリアは気付くこともなく、一心にシャカを見つめ続けている。
 きっと、さまざまなことがアイオリアの中で去来しているのだろうと思う。
 それはたぶん、舞台の上に立つシャカもまた同じなのだろう。
 二人だけにしかわからない『すべて』を互いに感じとりながら、目に見えぬ絆を深め、確かめ合っているーーーそんな風に魔鈴は思いながら、研ぎ澄まされた完璧なる舞踊に魅入った。

 場内にいるすべてのものたちの心を奪い、魅入らせている。

―――アテナの、神さえの心を奪う“華”の舞。

 それは、ただ一人の男に捧げるためなのだということを、どれだけの者たちが理解しているのだろうか。

―――己のすべてを捧げ、ただひとりの男を見守り続けたシャカ。

 その静かな激情の舞の美しさに胸を熱くしながら、髪の一本一本の動きでさえも見逃すまいと見つめた。


作品名:Love of eternity 作家名:千珠