現実と欲望と天国の間
『何も知らせないまま
こんな甘い世界に閉じ込められた魂に
何の魅力があるというの?』
長い栗色の髪を持っている少女は、穏やかな風の吹き延々と続く芝生の上でまどろんでいた。
上を見上げると、真っ青な空がどこまでも続き、自分が見たままにその雲の形は変形していった。
空に帆船を浮かべたいなら、心に思い。
また馬を走らせたいなら、心に思った。
空から降ってくる雨はどれも透明で、人の顔ほどある水滴だった。
ここではまるで重力がないように、ゆっくりゆっくりと落ちて来て大地を潤した。
この世界のすべてのものは美しく、少女の欲求はすべて満たされていた。
願えば、その大地には氷が一面に広がり、
またあるときは、森の奥地までも迷い込んで行けることもあった。
少し眠たくなった少女は、いつもの森へと身を移した。
そこには自分よりも大きな花が咲きほこり。
少女が触れると、その花はゆっくりと開いた。
少女は毎晩をその花たちの上で眠った。
そこで眠ることは、どんな高級なホテルのふかふかのベッドよるも心地よかったし、
また、その花ビラが散る様も一際だった。
まるで妖精のように光り輝き、落ちては雪のように消えてしまった。
そんな光景を飽きることなく少女は見続けていた。
きれいね。
こんなに美しくて楽しい世界って・・・
でも、そんな思いを分かち合う人はおらず、少女はいつも独りだった。
「あたしは、いつからここにいたんだろう?」
少女の頭に時々ふと、その言葉が頭をよぎる。
もっと、大昔にこんな喜びを共に分かち合う誰かがいたような気がして考えてみたが、思い出せなかった。
いい加減自分の名前すらも忘れてしまうぐらいの長い年月。
少女は、いつも独りっきりだったが、
実は、この世界にもう一人誰かがいることに気がついていた。
いつ頃気がついたのかも忘れたけれど、
自分と一定の距離を保ち、遠くから見守っている人物。
遠目でもニコニコと笑顔で微笑んでいる男性。
ほとんど物陰から自分のことを見ていた。
気がついたときに声をかけようと、近くに寄ってみたものの・・・
一定の距離に近づくと、その人は朝霧のように消えてしまう。
(どうしてなの?)
しばらく少女は、その青年のことが気になってしかたがなかった。
寝ても覚めても、黒い神官服を着ている青年のことをあれこれ考えた。
(いつもは自分が考えるだけで、願いが叶ってしまうこの世界。
でも、彼だけはあたしが望んでいるものとは別のところへ行ってしまう。)
(あたしが話しかけようとすると、彼は消えてしまう。彼はあたしのことがきらいなんだわ!)
青年がこの世界の住人でないことだけは、わかっていた。
いつしか少女は青年の存在に気がついていても、声を掛けるのをやめるようになっていた。
そして、青年の気配だけを感じて楽しむようになっていた。
(彼はきっと、この世界の神様なんだわ。
だって、こんないいところを見守っているんだもの!)
こんな甘い世界に閉じ込められた魂に
何の魅力があるというの?』
長い栗色の髪を持っている少女は、穏やかな風の吹き延々と続く芝生の上でまどろんでいた。
上を見上げると、真っ青な空がどこまでも続き、自分が見たままにその雲の形は変形していった。
空に帆船を浮かべたいなら、心に思い。
また馬を走らせたいなら、心に思った。
空から降ってくる雨はどれも透明で、人の顔ほどある水滴だった。
ここではまるで重力がないように、ゆっくりゆっくりと落ちて来て大地を潤した。
この世界のすべてのものは美しく、少女の欲求はすべて満たされていた。
願えば、その大地には氷が一面に広がり、
またあるときは、森の奥地までも迷い込んで行けることもあった。
少し眠たくなった少女は、いつもの森へと身を移した。
そこには自分よりも大きな花が咲きほこり。
少女が触れると、その花はゆっくりと開いた。
少女は毎晩をその花たちの上で眠った。
そこで眠ることは、どんな高級なホテルのふかふかのベッドよるも心地よかったし、
また、その花ビラが散る様も一際だった。
まるで妖精のように光り輝き、落ちては雪のように消えてしまった。
そんな光景を飽きることなく少女は見続けていた。
きれいね。
こんなに美しくて楽しい世界って・・・
でも、そんな思いを分かち合う人はおらず、少女はいつも独りだった。
「あたしは、いつからここにいたんだろう?」
少女の頭に時々ふと、その言葉が頭をよぎる。
もっと、大昔にこんな喜びを共に分かち合う誰かがいたような気がして考えてみたが、思い出せなかった。
いい加減自分の名前すらも忘れてしまうぐらいの長い年月。
少女は、いつも独りっきりだったが、
実は、この世界にもう一人誰かがいることに気がついていた。
いつ頃気がついたのかも忘れたけれど、
自分と一定の距離を保ち、遠くから見守っている人物。
遠目でもニコニコと笑顔で微笑んでいる男性。
ほとんど物陰から自分のことを見ていた。
気がついたときに声をかけようと、近くに寄ってみたものの・・・
一定の距離に近づくと、その人は朝霧のように消えてしまう。
(どうしてなの?)
しばらく少女は、その青年のことが気になってしかたがなかった。
寝ても覚めても、黒い神官服を着ている青年のことをあれこれ考えた。
(いつもは自分が考えるだけで、願いが叶ってしまうこの世界。
でも、彼だけはあたしが望んでいるものとは別のところへ行ってしまう。)
(あたしが話しかけようとすると、彼は消えてしまう。彼はあたしのことがきらいなんだわ!)
青年がこの世界の住人でないことだけは、わかっていた。
いつしか少女は青年の存在に気がついていても、声を掛けるのをやめるようになっていた。
そして、青年の気配だけを感じて楽しむようになっていた。
(彼はきっと、この世界の神様なんだわ。
だって、こんないいところを見守っているんだもの!)
作品名:現実と欲望と天国の間 作家名:ワルス虎