現実と欲望と天国の間
あるとき、ずっとここにはこの世界を見守る神様と自分だけしかいないと思っていた少女だったのに、
いつも自分が寝床としている花の中に一人の男の子が横たわっているのを見つけた。
「あ・・・誰!?」
黒髪の少年は大きく愛らしい瞳をぱっちりと開け、少女のほうを見た。
そして、あわてて飛び起き、少女の口元に人差し指を立てた。
「しー!
お姉ちゃん。」
そのサインに少女はうんうんと黙ってうなずく。
「突然でびっくりしちゃったんでしょう?
ごめんね、お姉ちゃんのベッド勝手に使ったりして。
お願いだから、騒がないでね。
お姉ちゃんが騒ぐと、ここの主人に気づかれちゃうから。
そしたら、僕ここにいれなくなっちゃうかもしれないから。」
少女はあまりにも長い間独りっきりだったので、寂しさを抱えていた。
せっかく会えた、もう一人の少年にいなくなってもらいたくなかったので、素直にその声に従った。
「あまり、騒がないで、
この世界で一緒に遊ぼうよ。
僕の名前はフィブリゾだよ。
よろしく。お姉ちゃん。」
黒髪の男の子は、そういうとにっこりと笑った。
それから、幾度となく男の子は少女の前に現れ、少女はその男の子との時間を過ごした。
時々、少女の神様がいつもと同じように少女のことを見守っていたが、もちろんそのときに男の子は現れることはなかった。
少女は秘密を持っている気がして、楽しくて仕方なかった。
「お姉ちゃんは、ここにいるのは幸せかい?」
湖に大きなバラの花を浮かべて、遊んでいると不意にフィブリゾが聞いてきた。
「ええ。もちろん幸せよ。」
「ふうん。」
「フィブリゾに会えたから。
あたし、小さくてもあたし仲間ができてうれしいわ。」
「そっか。僕、お姉ちゃんの仲間か~。」
「そうよ。
もちろん、また来てくれる?」
「うん。いいよ。
僕も忙しくないときは、ここに来るようにするから。」
「忙しい?」
「うん。そうだよ。
僕にだって、いろいろやることはあるんだ。」
いつしか、少女は男の子の訪れを待ちわびるようになっていた。
目の前の少年は、少女を見てくすくすと笑っている。
「ねえ、何がおもしろいの?」
何について笑われているかわからない少女は、ちょっとムッとして言った。
「僕は本当に長い間、お姉ちゃんと遊んでいるなと思って。
ぷっ、あはは。」
「フィブが、いつもそんなに大きな声出すなって言っているのに・・・」
「いや、ね。
ここの主人がさ、あいつの目を掻い潜って僕がここにいて、君と遊んでいることを知ったら怒るだろうな。と、思ってさ。
その怒る様を考えると、おかしくっておかしくって。」
「・・・?もしかして神様のこと?」
その言葉に少年は敏感に反応した。
「君、あいつのこと神だと思っているのかい?」
いかにも心外だという顔をしている。
「ええ。そうじゃないの?
だって、彼はあたしのことやこの世界のことをいつも見守ってくれているもの。」
少年はあきれたように薄く笑い、首を横に振った。
「ねえ、本当に君は何も知らないんだね。」
「どうして、君がここにいることになったのかも。」
少女はその少年の言葉を聞いて少しおびえた。
確かに、
もう幾年をここで過ごしていただろうか。
自分がここにいる意味を知らない。
そんな様子に、少年は面白そうに笑うと、少年の小さな手を少女の前に差し出した。
「おいで。
君に面白いものを見せてあげよう。」
迷いながらも、少女は少年の手を取った。
作品名:現実と欲望と天国の間 作家名:ワルス虎