水底にて君を想う 水底【1】
体調が悪くても、生体コントロールで誤魔化せる賢木のことだ、無理をしているのかも知れない。
一つ頷くと、皆本はバレットに笑ってみせる。
「ありがと、バレット。後で賢木には聞いておくよ。何なら無理にでも検査を受けさせるから」
「そんな必要ないんじゃない。先生なら今頃デートの真っ最中なんだから」
検査室の扉が開き、紫穂が入ってくる。
薫、葵がその後に続く。
「ただいま、皆本はん。街中で見掛けたんやけど、可愛い女性と会うてたで」
「そーそ。先生ってもっとこうで、こうなのが好きだと思ってたからちょっと意外だけど」
身振り手振りで、薫は胸と腰を強調する。
皆本はおかえり、と彼女達を迎える。
「仕事さぼってデートに行くような人、気を使うことないわよ」
「なんや、紫穂。機嫌が悪いと思うたら、賢木先生の事が気にな……」
葵の言葉が途切れる。
ニッコリ、と笑う紫穂の背後には黒いオーラが立ち上っている。
「賢木は、そんな奴じゃないよ。仕事に対しては驚くぐらい真剣なんだから。危ない仕事だって嫌な顔せず引き受けてくれる」
それは君達も知っているだろう、と皆本は笑う。
「せ、せやな」
葵は紫穂の黒オーラから逃れるため、急いで話題を変える。
「うちも助けてもうろうたし」
「あー、ハンドガンで飛行機の上の奴を撃ったのだよね。あれはすごかった」
薫がうん、うんと頷く。
「ハンドガンで飛行機の上?」
「あ、バレットは知らないんだっけ。えっとね……」
少し前、予知出動で起こった事件のことを薫はバレットに話す。
ハンドガンで相手の武器を撃ちぬいことを教えれば、バレットはひどく興味をそそられたようだ。
「その時の映像とか残されてないですか?自分は、狙撃手として参考にしたいのですが」
「ああ、探しておくよ。もっとも賢木はラッキーだったって、言ってたけどね」
バレットは皆本の言葉に真剣な表情になる。
ラッキーなどで当たるものではないだろう。バレットは射撃練習場でよく賢木と会う。
それは、賢木が銃の練習を真剣にしている、ということではないだろうか。
いつもふざけているようでいて、そういった努力をしている人なのだろう。
バレットは賢木に対する考えを少し改めようと思った。
と、柏木が駆け込んでくる。
そうとう、急いでいたのか息が切れて、顔が紅潮している。
「柏木さん!?」
皆本の声に柏木は顔を上げて、部屋の中を見回す。
「賢木さんは!?」
「午後は休んでいますが……あの」
柏木の様子に部屋の視線が集まる。
「よ、予知システムが……」
切れる息で話そうとして、咳き込む柏木。
「どうしたの柏木さん」
薫が心配そうにその腕をとる。
微かに震えている。
一度息を吸い込んで、背筋を伸ばす。
柏木は皆本の方を向き直ると、ゆっくりと言葉を吐き出した。
「変動確率超度七、賢木修二の死亡が予知されました」
空気が凍りついた。
誰もその言葉の意味を理解できなかった。
-続く-
作品名:水底にて君を想う 水底【1】 作家名:ウサウサ