【Livly】誰も知らない物語
ノワールが、島にやってきたのもその瞬間だった。
目の前には傷だらけで倒れているルチルと、白い光に包まれたジョロウグモ。
ジョロウグモはひたすらもがき、苦しんだ。
ノワールは目の前の光景が信じられなかった。
ジョロウグモの体が見る見る縮んでいくのだ。
まるで神の御業のようだ。
転生はとてつもなく長い時間のように感じられた。
そこにいたのは、宝石のように美しい青色をした、ユキムグリが一人。
ジョロウグモの姿は、どこにもいない。
ユキムグリは起き上がると、辺りを見回した。
「・・・私は」
その声は鈴のようだった。
ユキムグリはルチルに近づくと、抱き起こした。
「ルチル・・・?」
ルチルはその声に目を開く。
頬に涙が降りかかったけど、何も感じなかった。
だいじょうぶ、いたくない。もう、だいじょうぶ。
ぼくが最後の悲しみでいい。誰も泣かないでいいよ。
「ごめんなさい、ルチル、ああ、ごめんなさい・・・」
ルチルは微笑んで見せた。
口を開いて何か言ってみたかったのだけれど、胸がからっぽでなんだかとても眠たかった。
(ああ)
自分は、すごく幸せだと思った。
この幸せを、みんなに自慢してやりたいくらいだ。
(サファイアは、やっぱり綺麗だ)
そしてルチルは目を閉じた。
後に残ったのは、狂ったように泣き叫ぶユキムグリと、奇跡と絶望を同時に見た真っ黒なプリミティブトビネだけ。
この話をしても、誰も信じないだろう。
後味が悪くて、嫌に奇麗事ばかりで、それでも絶望的で。
それがこの物語の、全ての終わりだった。
作品名:【Livly】誰も知らない物語 作家名:夕暮本舗