願い事はひとつ。〈雪降る街で、そっと優しく・・・UP!〉
例えば、神々が人の負の感情を感じても、嫌気は点すかも知れないが、その感情によって精神攻撃をされ滅びることなどありはしない。
一方、魔族といえば、正の感情を受けると精神攻撃を受け、滅びさる可能性すら孕んでいる。
魔族は神と同じようにとてつもない力を持っているのにも関わらず、制約が多すぎて、自分の意のままに立ち振る舞うことは許されていないのだから。
人々のイメージでは、魔族とは勝手気ままに暴れて、破壊行為に勤しんでいるように見えるが、
実際はまるっきり違い、およそ自由とは無縁の存在であるという事実。
「ずいぶん魔族側を憐れんだ立場になって考えてくれるんですね。
リナさんって。」
説明を聞き終わった元魔族の青年はにっこりと微笑んだ。
魔族の立場になって考えてくれるなんて、この少女だからこそだろうと彼は思った。
普通の人間は、魔王様から魔法の力を借りはしても感謝すらしてくれないのに。
彼はおかしくなった。
くっくっくと、声を殺して笑った。
(やっぱり、僕は特別な少女を恋人に持ったようです。)
青年は目じりから出てくる、涙を人差し指で押さえながら、話した。
「さあ。でも、それが僕には不幸だとは感じられなかったのです。
僕たち魔族は、魔族を統べる赤眼の魔王様に与えられたものを受け入れるだけだったのですよ。」
彼は首を傾げた。
それ以上の考えを持つものは、異色な魔族ですと言わんばかりに。
きっと、そうなのだろう。
それが、魔族の本当なのだろう。
この元魔族の青年は、魔族の中の魔族だったのだから。
傍目からはお茶目に振舞っていても、お役所勤めのお堅い性格をしていただろうし。
そうでなかったら、とっくに、この青年も・・・
ガーブのようになっているのかもしれない。
少女は目を閉じた。
「そう・・・そこよ。ゼロス。」
そして、静かに少女は話した。
「え?」
「考えさせない制約を作ったことが悪いわ・・・。
あんたたち部下の魔族に、不思議に思わない制約を作るなんて、あたしに言わせると卑怯よ。」
栗色の髪の少女は、その小さな矛盾を指摘したのだった。
「でも、どうしてそう作ったのかしらね・・・
あんたの上司の赤眼の魔王様は・・・くすくす。」
おかしいわね。と、少女は付け加えた。
「きっと・・・あたしが考えるに・・・
魔族に愛がないなんて嘘よ・・・。」
『愛』という言葉に反応して、青年は昔の自分について少し考えた。
魔族に愛などあるはずがないというのに、この少女は本当に突飛なことを言い出すのか?
少女の口は小さな声で続けた。
「赤眼の魔王が・・・金色の魔王を愛してるから・・・。
でも、金色の魔王は・・・人間を・・・生命を・・・大地愛しているから、妬んじゃないのかしら。」
「妬む!?ルビーアイ様が!?」
そもそも魔族には愛などというものはあるはずもないのに、さらに嫉妬なんて・・・
まさにありえないことなのでは・・・?
と、元魔族の青年は、昔に感じたことがある赤眼の魔王について思いを馳せた。
しかし、自分は一介の部下であり。
自分を創造せし、上司の思いなど理解できるはずもないのだが・・・
でも、もうそれも自分自身が人間になった今、少女の言う通り、考えてはいけないなんて制約はないのかもしれない。
「つまり、赤眼の魔王様は金色の魔王様が愛しているものに、嫉妬しているので、それを滅ぼそうとしていると。
だから、魔族を統べる王は嫉妬しているものを壊そうとしていると・・・?」
あれこれ上司の恋愛事情を考えていると、そう自然と口から言葉が出てきた。
少女はこくりと小さく頷いた。
「そうよ。嫉妬を隠すために・・・あんたたち魔族に縛りを多く作ったのではないのかしら?
あんたたち魔族の胸には赤眼の魔王さんから受け継いだ、すべてのものと共に金色の魔王の胸へ同化する宿命を持っているんでしょう・・・?」
「え・・・。ええ。そうです。」
「それが・・・きっと恋よ・・・。」
「え!?恋!?
リナさん!?
りなさん・・・!」
すぅーすぅー・・・青年の耳に規則的な呼吸音が聞こえてきた。
次の瞬間、自分の横に横たわる栗色の髪の少女は、深い眠りへと引きずりこまれて行ってしまった。
「リナさん・・・魔族について、大切な話をしていたのに、疲れて寝てしまったのですね。」
まだ、あなたの面白い考えを聞きたかったですのに。
青年は少しだけ、嘆息したが、少女の疲れて寝てしまうまで話した優しさに気がついた。
隣に眠る、小さな少女の寝顔を優しく撫でた。
「リナさん。魔族について・・・もしかするとあなたの考察通りかもしれない。
人間になった僕には、昔には感じられなかったものが今は感じる・・・。
それはあなたの小さな体が本当に温かいということ。
本当に、それだけ理解できれば、この僕には十分すぎる。」
そして、その唇に自分の唇を優しく重ね合わせた。
「そうですね。もう少し、赤眼の魔王様も自分の心に正直になって、金色の魔王様の愛するものをあの方自身も許せたならば、
僕は魔族のままでもあなたの温もりを感じることができたかもしれないんですよね〜。」
「・・・」
「人間の姿では、ほんの少し、あなたとの触れ合う時間が少なすぎると感じてしまうんですよね。
欲を言えば、あともう少し二人の時間が続けばいいと思うんです。」
なぜなら、人間という生命体は永遠を保持できないのだから。
でも、だからこそ。
刹那な時間だけを生きるからこそ。
人間とはこうも欲張りな種族なのかと、元魔族の彼は再確認したのだった。
「おやすみなさい。リナさん。」
青年はは優しげな眼差しのまま、自分の左にある小さいテーブルの方を向き、上に置いてある3本のろうそくの火を自分の息で吹き消した。
後は優しい暗闇が二人を包んでいた。
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『願い事ひとつ。』の続編。小さなワンシーンでした。
いつの間にか、この二人ひとつのベッドで寝るようになっている関係まで行っていましたねw
びっくり!一体どんな展開があったんでしょう!?
いや〜しかし、寝る前の準備を恋人にさせて、自分は寝ているだけなんてwさすがリナちゃん。何もしない。
顎でゼロスを使う!そして、彼も下僕体質!!ばんざーい!!
この二人・・・幸せの上に更なる幸せ。このリナとゼロスには幸せが訪れることでしょうね?くす。
作品名:願い事はひとつ。〈雪降る街で、そっと優しく・・・UP!〉 作家名:ワルス虎