究極の選択
「もし、無人島に誰かとふたりきりで行かなくちゃいけないとしたら、誰を選ぶ?」
「えっ……」
問われたアレン君はきょとんとした。
持っていたカップをおろして、私に向き直る。
「え? それはどうしても行かなくちゃいけないってことですか? いえ、あの、たとえばってことで?」
わたしは力強くうなずいた。
「そう。絶対にふたりで行かなくちゃいけないような場合。別にそれで残された人が死ぬとか、そういうんじゃなくて。任務か何かで、行く方が危ないの。たとえば、二度と戻れないとわかっているとか。……アレン君なら誰を連れて行く?」
「ええー……」
アレン君は目の前に置いたカップの中に目を落とした。しばらく困った顔でうなっていたけど、カップにまた手をのばした時には、答えが決まっていたようだった。
「行くほうが危ない……もう二度と戻れない……ふたりきり」
それでも用心深く考えるようにつぶやいて、紅茶を一口、もう一度私を見ると、きっぱりと言った。
「それなら、僕は神田と行きたいです」
「どうして?」
すぐに問い返すと、ちょっと驚いたようだった。その名を出せば、私がからかってこの質問から逃げられるという思いがあったんでしょう。ふたりは決して仲が良いとは言えないもの。
「どうして、ですか? うーん……」
また首をひねって考え始めてしまう。
どうしてそんなことを聞くのかと尋ね返さない辺り、素直というか、礼儀正しいというか……それはまったく違うことだけど……片方はわかっていなくて、片方はわかっていてのことだから……どっちにしても、真面目な子。それでも、私にはさっきの答えがとうに考えたすえのもので、考えている演技だということはわかった。いえ、本当に考えているのだけれど、それは質問の答えとは違うの。
やがて残念そうに首を振ると、申し訳なさそうに笑って、でもはっきりと言った。
「神田なら、僕が死んでも悲しまなさそうですから」
「ふうん?」
私は首を傾げた。
結局ありのままの考えを言うことに決めたみたい。死ぬ、なんて、よほどのことでもなければ人に言わない子。どういう心境の変化かはわからないけれど。
アレン君は私の疑問を答えに対してだと思ったようだった。
「本当に悲しくないかどうかは知りませんけど……たぶん……いえ、なんでも……」
口ごもるアレン君の顔にちらっと不穏なものがよぎった。憤りを含んだ暗い微笑み。何が言いたいのかはすごくよくわかる。それが真実かどうかは別にして。神田君の態度が悪い。
アレン君はすぐに表情を戻して、真剣な調子で言った。
「少なくとも、あの人なら悲しみを表さないでくれますよね。きっとすぐに自分が生き残ることに必死になれるでしょうから」
残しても不安じゃないっていうか……と後が消えていく。
わたしはなんとなく笑ってしまった。
「ふうん?」