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究極の選択

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「もし、無人島に誰かとふたりきりで行かなくちゃいけないとしたら誰を選ぶ?」



「へーえ」
 ラビは笑った。片方の眉をはね上げて、私を観察するようにまじまじと見る。
「古典的だなぁ」
「どういう意味よ?」
 少しつっけんどんに返す。ラビにはすぐに茶化す癖がある。そして隠す。ごまかされてはいけない。
「究極の選択ってやつ? 『もし』と『いざ』では違うだろ。聞いたってどうしようもねぇじゃん。なーんでそんなこと聞くんさー?」
「なんででも、よ。ちゃんと答えて」
 面倒くさそうな態度でも構わず詰め寄る。ラビから聞き出したいことは問い詰めるくらいがいい。これはアレン君と逆なんだけど。
 ラビは少しいらついたように返した。
「まったく、女の子は好きだよな、そーゆーの」
「そうよ、好きなの。だからちゃんと答えてね?」
 にっこり笑ったら答える気になったらしい。ソファーに座り直した。もしかしたら私がたまたま置いた足がそこにあったラビの足にかすったとか、何か関係があるかもしれないけど。
「……ちゃんとお答えします……」
 妙にしおらしくなっちゃって。
「よろしい」
 ラビはしかめ面でうなり、あごに手を置いて片方の目で空をにらむ。答えを待つのはそれほどかからずに済んだ。
「……ユウ」
「……うん?」
「ユウ・神田」
「……うん」
 別に『you』だと思ったわけじゃないんだけど、ラビは律儀に言い足してくれた。
 一応聞いてやるか。
「それはどうして?」
 ラビはさっと四方に目を走らせ、ソファーにゆっくりと背を預けて、すっきりした様子で言った。
「たとえばアレンとかだったら死んでも死にきれてなさそーで嫌?」
「それはアレン君に失礼じゃないの」
 ムッとして言うと、ラビは敏感に察して早口で言った。
「いや、思い切れてなさそーって話? ユウだったら、死んでも『ああ、悔いはないんだろうな、精一杯やってあきらめついてんだろな、あいつじゃーな』って思う、そういう話さ。まあ、だいたいしぶといし?」
 首を傾げて肩をすくめる。そして、急に真面目な顔で私を見て、声をひそめる。
「嫌だろなんかそういうの」
 神田君のことが、じゃない。すごく省略されていたけど、言いたいことは伝わった。
「……うん」
 連れていきたくない人を訊いたわけじゃないんだけど。
 わたしが相槌を打ったことで、ホッとしたような笑顔になった。
「まぁな、『もし』の上に『もし』を重ねたような話だけどな」
「……そうね」
「けどな」
 こくりこくりうなずいた私を、何か恨めし気に下から覗きこむ。
「……本当に行けってんなら答え変わるぞ?」
 その後のふざけた答えに、私が聞かなければよかったという気にさせられたのは言うまでもない。


作品名:究極の選択 作家名:野村弥広