二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

奥村雪男の愛情

INDEX|7ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

シュラさんは遠くを眺めていた。
風が強く吹いている橋の上に、ひとりで凜と立っていた。
僕は思い出した。これまであったこと。
シュラさんは自由気ままに振る舞っていたけれど、じゃあ、嫌なことはしなかったのかと考えてみると、そうじゃないことに気づく。
いろんなことを、いろんな相手から頼まれて、文句を言いながらも引き受けていた。
文句を言っても後は引かないから、むしろ文句を言うことで帳消しになるから、頼みやすいのだろう。
まわりから頼りにされていた。
じゃあ、シュラさんはどうなのか。
シュラさんがだれかに頼ることはあっただろうか。
しばらく記憶をたどってみたけれど思いつかなかった。
もしシュラさんが頼るとしたら、たったひとり、それは神父さんだろう。
だけど、その神父さんにシュラさんは突き放されたのだ。
この人は。
きっと。
これまでずっと、だれかに寄りかかることなく、強い風が吹き荒れる中でも、ひとりで立ち、戦い続けてきたのだろう。
そう僕が思ったとき。
シュラさんが僕に気づいたらしく、顔を向けた。
そして。
「雪男」
僕の名を呼び、シュラさんは笑った。
なんで、この人はこんなふうに笑うんだろう。
なにも考えていないように、つらいことなんかなにもないように、笑うんだろう。
僕が小学生だったときもそうだ。
シュラさんは真面目に認定試験に取り組まないだけで、実力は充分あって、僕よりも強くて、本当は僕なんて相手にならないぐらい強いのに、僕に勝負をもちかけて、僕に勝って大喜びしていた。
だから、僕は気づかなかった。
まだ小学生で、しかも弱い僕の訓練に、シュラさんがつき合ってくれていることに気づかなかった。
僕のおごりで一緒になにかを食べているとき、シュラさんは嬉しそうだった。
そのあいだ、僕は腹をたてたりはしたけれど、寂しくはなかった。
手をつないで道を歩いた。シュラさんが無理矢理つないできたからだ。僕は恥ずかしくて、嫌だった。
でも、シュラさんは楽しそうだった。
小学生の僕と手をつないで笑っていた。
あのとき、つないだ手は優しかった。
ふと、耳によみがえってきた。
ひさしぶりにトレーニングルームでシュラさんと勝負したときに言われたこと。
アタシからすれば、燐よりおまえのほうがよっぽど心配だって話だよ。
それを聞いて、僕は子供扱いされているように感じて、少し反撥してしまった。
素直に受け取っていれば、気づけたかもしれない。
思いやりに、自分に向けられた優しさに、気づけたかもしれない。
だけど、気づくどころか、僕はシュラさんに嫌いだと言った。ひどい言葉をぶつけた。
それなのに、シュラさんは冗談のように流してくれた。
僕をゆるしてくれた。
いつも、そうだった。
無意識のうちに僕はシュラさんの優しさに甘えてたんだ。
「どうかしたのか?」
シュラさんは怪訝そうな顔をして、小首をかしげた。僕がただシュラさんを見て立ちつくしていたから気になったのだろう。
胸になにかがこみあげてきて、それが心にしみて、痛んだ。
泣きたいような気分になった。
でも、今ここで泣くのは妙だから、こらえた。
「なんでもありません」

強くなりたいと思った。
あなたに守られてばかりいるのではなくて、あなたを守れるぐらいに強くなりたい。

そして、いつか、また、あなたと手をつないで歩きたい。

自分の中にあるこの感情の名を、僕は知っている。




作品名:奥村雪男の愛情 作家名:hujio