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一リカって良い響き

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 でも現実はそんなに楽じゃなかった。
 彼は、足をけがしていた。
 けがなんて物じゃなくて、もう歩けないかもなんて言われるほどの、大けが。
 だから彼は、彼の祖国であるアメリカで、治療を受けることになったのだ。
 その治療には、何年もの時間がかかった。
 手術とリハビリ、それはとても根気のいることで、アメリカに居るということも含め気軽に会いに行けるものでもなかった。
 最初の方はまだよかった。メールして、時々電話もして、何回かだけど会いに行ったりもした。
 けど自分はだんだんしんどくなって、彼もきっと自分と話したりするのが嫌になっていた、と思う。

 自分は「思いを絶対彼は自分に返してくれないだろう」と、そう確実に思った時から、彼の事を思うのがつらくなっていた。

 彼のことを考えないようにして、考えないようになった。
 他の人の事を見るようにして、見えるようになった。
 そのうちに、男は彼だけじゃないと少しずつ気づきかけてきた。
 そんな都合の良いタイミングで、もう名前も覚えていない誰かから告白されて、意地だと思って付き合った。
 結果から言うと、二、三カ月別れたけど、少し充実したような気分になった。
 つらくなって忘れていた恋の感じが、戻ってきたような気がした。

 それから、何人かと付き合った。
 彼ほどじゃないけど、好きになった人もいた。
 彼以外の人と、キスをした。
 セックスもした。
 今も、付き合ってる人がいる。

 少し前までは、彼の事なんてほとんど忘れていた。
 覚えていたくない、記憶の片隅にあった、積み重なって埋もれていた彼との記憶を急に思い出したのだ。

 彼とあの子の、結婚式の招待状によって。
作品名:一リカって良い響き 作家名:かなどめ