猟師な狼と闘牛士なおばあさん。
某日。アメリカ主催のハロウィンパーティーに出席する為の会議が、ここスペインで行われていた。目指すはもちろん優勝。チームでの仮装もありとの事で、スペインとベルギーはウキウキで考えていた。
「多少登場人数がおるやつがええよなぁ」
どうせなら皆で仮装したいと、スペインが指を折って人数を数える。今回はルクセンも来るので全員で五人。狭い世界だとキャラが足りなくなってしまう。そんなスペインに、ベルギーがほくほくとした顔で提案した。
「ほなら、『赤ずきんちゃん』なんてどうですか?」
ベルギーのメーカーから出た、ホラー風味の赤ずきんモチーフゲームが頭をよぎる。少し内容を話せば、スペインで賞を取ったこともあり「ああ、あれか」と返事が返った。
とはいえゲーム版ではメインの登場人数が多いので、結局童話版の方がいいのではと話は進む。
「うんうん、ええなあ。狼とか猟師とかかっこええやん!」
そんなに作るのが難しい衣装では無く、揃えば見栄えもいい。お金が掛からないのは良い事だと頷き、スペインは配役を決めていった。
「勿論、ベルギーが赤ずきんやね。で、俺は親分だから助ける猟師な! オランダは狼なんかええんとちゃうか?」
「お兄ちゃん狼とか、かっこええわぁ~」
無邪気に喜ぶベルギーの姿に、オランダが猟師で自分が狼だと撃ち殺されそうで怖いとは言えない。赤ずきんと狼は対のようなものだし、兄妹でやるのは丁度いいだろうとスペインは上手く纏めておいた。
「ロマーノとルクセンはどうします?」
「うーん……」
残りの登場人物は、病気のおばあさんか、お使いを頼むお母さん。どちらも女性キャラだ。誰がより合っているかを考えれば、自然と配役は決まった。
「ロマはおばあさんやな。あいつよう寝とるし、狼に食われても猟師の俺が助けたるで~!」
「あはは、じゃあルクセンがお母さんで」
でもロマーノは女装嫌がるやろかと心配するベルギーに、彼の衣装を作ってやって欲しいと頼む。可愛い姉に頼まれると弱い末弟は、きっと着てくれるだろう。ついでに上目遣いでお願いすれば、女性に弱い彼は断れず絶対に着る。涙目になっても着てくれる。そんな自信があった。
「ロマーノ、きっとかわええやろな~」
「かわええでしょうね~」
二人揃って、可愛い末っ子の姿を想像して頬を緩める。やる気満々で衣装作りに入るベルギーを見送り、スペインは握った拳を天に掲げた。
「何で俺がスカート……」
自室で貰ったハロウィンの衣装を広げ、ロマーノは泣きそうになっていた。
ベルギーが頑張って作ったというそれは、紛れも無く女性用の寝巻き。確か「赤ずきんをやるでー」と以前スペインが言っていたので、恐らくこれはおばあさん役の衣装だろう。
「狼とか猟師やらせろコノヤロー!」
ベッドをばすばすと叩き、自分の為に作ったと笑顔で渡してきたベルギーの顔を思い出す。あのキラキラした瞳を見て、嫌だと付き返せる男は居るのだろうか。
(ベルギーに泣かれれば、たぶんオランダでも着るぞこれ……たぶん)
そのまま問答無用でスペインへ殴りかかりそうでもあるが。
……そんな事より、この服をどうするかだ。
ちょっと現実逃避をしそうな頭を押さえ、この服を着る苦痛を考える。下に何かを履くのはありだろうか。サンダルまでセットで渡されてしまっており、足元をどうこうするのは無理そうだ。
「あんまり服を足し過ぎると、仮装って分からなくなりそうだしな……」
そこまで特徴的な衣装では無いので、あまり服を増やすとコンテストに響くかもしれない。もし何かあったら優勝商品に食いつきそうなオランダに怒られそうだと震え、ロマーノは下にズボンを履く事を諦める。
だがスペインの趣味に合わせるのも癪だ。女装させたがる趣味は相変わらずかと昔のメイド服を思い出し、「かわえーかわえー」と連呼する顔に舌打ちをする。
「……そうか、可愛くなければいいのか!」
急に閃き、ロマーノはガッツポーズをとった。可愛いもの好きなスペインの鼻を明かすには、衣装はきっちり着つつもカッコよくなればいい。あの腹の立つリップサービスを聞かずに済むように、ロマーノはカッコいい男のイメージを固めていった。
「うん、男なら黙ってゴットファーザーだな」
イタリア移民の話だからセーフと言い訳し、早速小道具を集め始める。上質なレザーの黒手袋にブランドのサングラス。最後に対スペイン用の武器だと考え、衣装を全て装着。鏡に映るどう見ても可愛いとは次元の違う姿に、ロマーノは見事な作戦だと肩を揺らして笑った。
「ロマーノかわえー!」
「うんうん、かっわかわえー!」
……そんなロマーノの作戦は、予想以上におかしいセンスだった二人の食いつきによって砕け散った。
自分の衣装を見るスペインとベルギーのかわええ攻撃にうんざりとし、オランダに救いの視線を向ける。ロマーノの視線に気付いた兄は、そっと首を横に振った。
「ベルギー、ロマの衣装最高やんなぁ~。かわええ!」
「がんばりましたわ~。かわええ!」
膝上丈の裾をスペインが手放しで褒め、ベルギーがてへっと笑う。この丈には確かに文句があると口を開こうとすれば、先にごめんなぁと謝られた。
「ロマーノの足長すぎて丈足りんかったんやね」
「……俺の脚が長い所為なら、仕方ねーな」
理由にちょっとだけ溜飲を下げ、長さを見せ付けるように近くの足場へ片足を乗せる。ぺちりと膝を叩けば、猛烈な勢いでスペインが足を掴み下げさせた。
「うわっ、何すんだコノヤロー!」
「あかん! この丈やと、ちょっと足上げれば捲れてまう」
ロマーノのスカートの裾をしっかりと両手で押さえ、スペインはあまり足を動かさないように真剣な顔で注意する。その言葉に呆れ、「アホか」と吐き捨てた。
「誰が男の下着見て喜ぶんだよ。フランスでもしねーよ」
あいつの目的は中身だろうから、下着はたぶん平気。そんな気持ちだが、スペインは首を振って何度も駄目だと言う。背後からぎゅうぎゅうと抱きつき「ロマーノはオレが守る!」と盛り上がっている親分様に肘鉄を入れて黙らせると、赤ずきんちゃん一行は会場へ移動する事にした。
「多少登場人数がおるやつがええよなぁ」
どうせなら皆で仮装したいと、スペインが指を折って人数を数える。今回はルクセンも来るので全員で五人。狭い世界だとキャラが足りなくなってしまう。そんなスペインに、ベルギーがほくほくとした顔で提案した。
「ほなら、『赤ずきんちゃん』なんてどうですか?」
ベルギーのメーカーから出た、ホラー風味の赤ずきんモチーフゲームが頭をよぎる。少し内容を話せば、スペインで賞を取ったこともあり「ああ、あれか」と返事が返った。
とはいえゲーム版ではメインの登場人数が多いので、結局童話版の方がいいのではと話は進む。
「うんうん、ええなあ。狼とか猟師とかかっこええやん!」
そんなに作るのが難しい衣装では無く、揃えば見栄えもいい。お金が掛からないのは良い事だと頷き、スペインは配役を決めていった。
「勿論、ベルギーが赤ずきんやね。で、俺は親分だから助ける猟師な! オランダは狼なんかええんとちゃうか?」
「お兄ちゃん狼とか、かっこええわぁ~」
無邪気に喜ぶベルギーの姿に、オランダが猟師で自分が狼だと撃ち殺されそうで怖いとは言えない。赤ずきんと狼は対のようなものだし、兄妹でやるのは丁度いいだろうとスペインは上手く纏めておいた。
「ロマーノとルクセンはどうします?」
「うーん……」
残りの登場人物は、病気のおばあさんか、お使いを頼むお母さん。どちらも女性キャラだ。誰がより合っているかを考えれば、自然と配役は決まった。
「ロマはおばあさんやな。あいつよう寝とるし、狼に食われても猟師の俺が助けたるで~!」
「あはは、じゃあルクセンがお母さんで」
でもロマーノは女装嫌がるやろかと心配するベルギーに、彼の衣装を作ってやって欲しいと頼む。可愛い姉に頼まれると弱い末弟は、きっと着てくれるだろう。ついでに上目遣いでお願いすれば、女性に弱い彼は断れず絶対に着る。涙目になっても着てくれる。そんな自信があった。
「ロマーノ、きっとかわええやろな~」
「かわええでしょうね~」
二人揃って、可愛い末っ子の姿を想像して頬を緩める。やる気満々で衣装作りに入るベルギーを見送り、スペインは握った拳を天に掲げた。
「何で俺がスカート……」
自室で貰ったハロウィンの衣装を広げ、ロマーノは泣きそうになっていた。
ベルギーが頑張って作ったというそれは、紛れも無く女性用の寝巻き。確か「赤ずきんをやるでー」と以前スペインが言っていたので、恐らくこれはおばあさん役の衣装だろう。
「狼とか猟師やらせろコノヤロー!」
ベッドをばすばすと叩き、自分の為に作ったと笑顔で渡してきたベルギーの顔を思い出す。あのキラキラした瞳を見て、嫌だと付き返せる男は居るのだろうか。
(ベルギーに泣かれれば、たぶんオランダでも着るぞこれ……たぶん)
そのまま問答無用でスペインへ殴りかかりそうでもあるが。
……そんな事より、この服をどうするかだ。
ちょっと現実逃避をしそうな頭を押さえ、この服を着る苦痛を考える。下に何かを履くのはありだろうか。サンダルまでセットで渡されてしまっており、足元をどうこうするのは無理そうだ。
「あんまり服を足し過ぎると、仮装って分からなくなりそうだしな……」
そこまで特徴的な衣装では無いので、あまり服を増やすとコンテストに響くかもしれない。もし何かあったら優勝商品に食いつきそうなオランダに怒られそうだと震え、ロマーノは下にズボンを履く事を諦める。
だがスペインの趣味に合わせるのも癪だ。女装させたがる趣味は相変わらずかと昔のメイド服を思い出し、「かわえーかわえー」と連呼する顔に舌打ちをする。
「……そうか、可愛くなければいいのか!」
急に閃き、ロマーノはガッツポーズをとった。可愛いもの好きなスペインの鼻を明かすには、衣装はきっちり着つつもカッコよくなればいい。あの腹の立つリップサービスを聞かずに済むように、ロマーノはカッコいい男のイメージを固めていった。
「うん、男なら黙ってゴットファーザーだな」
イタリア移民の話だからセーフと言い訳し、早速小道具を集め始める。上質なレザーの黒手袋にブランドのサングラス。最後に対スペイン用の武器だと考え、衣装を全て装着。鏡に映るどう見ても可愛いとは次元の違う姿に、ロマーノは見事な作戦だと肩を揺らして笑った。
「ロマーノかわえー!」
「うんうん、かっわかわえー!」
……そんなロマーノの作戦は、予想以上におかしいセンスだった二人の食いつきによって砕け散った。
自分の衣装を見るスペインとベルギーのかわええ攻撃にうんざりとし、オランダに救いの視線を向ける。ロマーノの視線に気付いた兄は、そっと首を横に振った。
「ベルギー、ロマの衣装最高やんなぁ~。かわええ!」
「がんばりましたわ~。かわええ!」
膝上丈の裾をスペインが手放しで褒め、ベルギーがてへっと笑う。この丈には確かに文句があると口を開こうとすれば、先にごめんなぁと謝られた。
「ロマーノの足長すぎて丈足りんかったんやね」
「……俺の脚が長い所為なら、仕方ねーな」
理由にちょっとだけ溜飲を下げ、長さを見せ付けるように近くの足場へ片足を乗せる。ぺちりと膝を叩けば、猛烈な勢いでスペインが足を掴み下げさせた。
「うわっ、何すんだコノヤロー!」
「あかん! この丈やと、ちょっと足上げれば捲れてまう」
ロマーノのスカートの裾をしっかりと両手で押さえ、スペインはあまり足を動かさないように真剣な顔で注意する。その言葉に呆れ、「アホか」と吐き捨てた。
「誰が男の下着見て喜ぶんだよ。フランスでもしねーよ」
あいつの目的は中身だろうから、下着はたぶん平気。そんな気持ちだが、スペインは首を振って何度も駄目だと言う。背後からぎゅうぎゅうと抱きつき「ロマーノはオレが守る!」と盛り上がっている親分様に肘鉄を入れて黙らせると、赤ずきんちゃん一行は会場へ移動する事にした。
作品名:猟師な狼と闘牛士なおばあさん。 作家名:あやもり