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ラボ@ゆっくりのんびり
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【イナイレ】花を売る人【R-15】

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 ■注意!
 ■廓ネタ。あんまり幸せな話じゃありません。

 
 
 暗闇のなかで寝転んでいる。
 瞼を落としても持ち上げても大差ないほどの闇の中では自然と聴覚が冴えた。佐久間の耳殻は遠くから響く囃子に似た音楽と、僅かに聞こえる歓声をとらえていた。
 大方、どこかの見世の何とかという遊女が道中でもしているのだろう。大門に囲まれた箱庭のような狭い世界の中で、遊女の道中は唯一の娯楽でもあった。
 ふだんならば佐久間も格子がはめられた自室の窓からぼうっと見下ろすのだが──基本的に佐久間は見世どころか自室から出ることさえ好まなかった──、今日はそれすら出来ない。
 仕置き部屋に入れられてどれくらい経つだろう、と後ろ手に縛られたまま指を折るが、みっつめを数えるために中指を折った途端激痛が走った。数日前なのか、数週間前なのか、閉じ込められた佐久間に確かめる術はもはや残っていなかったが、仕置き部屋に入れられる直前取った客に乱暴に中指の骨を折られたことは忘れられない。
 色街で女でなく男を買う人間は決して少なくはないが、基本的にどこか変わっている。それは性の嗜好にも如実に表れることが多々あった。
 佐久間を買った名も知らぬ男は部屋に通された早々乱暴に佐久間を組み敷き、わざと痛みを与えるような仕草で抱いた。こういう客は大袈裟に痛がる姿か、あるいは健気に痛みに耐える姿のどちらかを見て興奮する。一瞬思案したあと佐久間は後者を選んだのだが、それが間違いだった。
 痣が残るのではないかと思えるくらい強い力で幾度に渡り殴られ続ける。顔でなく身体に拳をめり込ませられるたび、佐久間は息を飲んで声を押し殺した。それが気に食わなかった男は、そそり立つ陰茎を後ろ向きから無理矢理に佐久間の中に押し込めたあと、おもむろに右手を取ったかと思っえば、ぼきりと音を立てて花を手折るかのごとく容易に骨を折ってみせた。喉を引き攣らせる悲鳴が佐久間の唇から漏れてからすぐ二階回しが部屋に駆けつけたが、既に男は白目を向き口から泡を吹いたまま床に横たわっていた。荒い息で肩を上下させた佐久間は、男を見下ろすように立ち尽くしていた。
 男は死んだわけではなかった。
 指を折られ急な痛みに襲われた佐久間は生存本能の勢いに任せ、背後にいる男を思い切り突き飛ばし、とどめをさそうと股間を思い切り蹴りつけた。勃起していたそこを容赦なく蹴りこまれれば大抵の男ならば気を失って当然だ。
「……何してんだよ」
 と、遅れてきた不動は客の意識がないことを確認したあと、店主らしからぬ言葉で呆れたように呟いた。
 治療どころか添え木すら与えられないまま仕置き部屋に入れられてから充分な時間が経ったと思っていたが、時間ばかりが無為に過ぎていっただけでぽきりと折れた骨をくっ付けるほどの時は経ってなかったようだ。これでは摩羅を握るときに苦労する。


 大門によって“外”と“中”に分けられたこの色街の中で暮らすのはほとんどが女だ。外の世界は男が大手を振って歩くものらしいが、“中”は違う。女によって構成された世界のなかで君臨するのはやはり女でしかない。
 自分が陰間として“中”に訪れたのがいつなのか、佐久間は知らない。物心ついたころから地味なこの見世に置かれ、年端もゆかぬ子どものうちから客を取らされていた。遊女のように三味線を弾いたり、文字を読んだり書いたりということは一切教わらず、当時の店主に教えこまれたのは摩羅から精を搾り出す性技の手練だけだった。
 この生活に疑問を覚えたことはない。ただ、自分が“そうやって生きていくべき人間”なんだということを知っただけだ。
 女社会である色街のなかで、陰間は決して地位の高い存在ではなかった。一発五文の鉄砲女郎よりは上だが、下級の見世に属する遊女には劣る。先ほど耳に響いた道中なんてもちろん出来ないし、充分な休息さえ与えられない。
 見世の遊女は月に一度、身体の原因で登楼らずに済む期間がある。その間はゆっくりと身体を休めながら、またひと月を越すための力を蓄えるのだろう。だが陰間は違う。身体の不調などはないし妊娠の心配もない。精を抜くには女より手軽だが、それでもほとんどの男は安価で抱ける陰間より、登楼するだけで金のかかる遊女を選んだ。
 自然と遊女の地位は陰間よりも高くなり、陰間は陰間で客を引き寄せるために湯女の真似事をさせられたり、普通の見世では断られるような性技を強要されたりする。見世のなかでも身体を壊す者はたくさん居たし、佐久間とて幾度に渡り身体に不調を覚えることがあった。
 それでも佐久間は陰間のなかでは比較的恵まれた待遇だった。一見すれば女と見紛うほどの容姿は口の悪さや学のなさを埋め合わせ、子どものころから客をとっていたためか、同年代の中では長けた技巧を持っている。佐久間の顔と技巧を目的に興味本位で部屋に訪れる客も居るくらいだ。もしも佐久間が女であったならこの色街一の花魁となれただろうとは、かつての客の言葉だ。ありがとうと礼を言いつつ内心では興味ねえよと唾棄した。
 佐久間は間違いなくこの見世の稼ぎ頭ではあるが、だからと言って、仕置き部屋に送られることを逃れられるわけではない。


 後ろ手に手首を縛り付けられ、立ち上がることの出来ないよう腿の辺りも縛られる。仕置き部屋の扉が開かれるのは朝と夕、米のほとんど入っていない粥を持ってこられるときだけだ。それ以外は佐久間が泣こうが叫ぼうが開かれることはない。垂れ流しのままの排泄物のにおいには三日で慣れてしまったが、食事のたびに扉を開ける男は皆嫌そうな顔をして佐久間を見下ろしていた。
 美しいと称される顔は、今ややつれ果てていることだろう。絹のようだと言われる髪の毛は麻のようにぱさついているはずだ。
 いつになったらここから出されるのだろう。そんなことを思っていると、ふいに扉が細く開かれ、闇に閉ざされた仕置き部屋の中に光が一筋差し込んだ。
 食事にはまだ早いはずだが──と思いながら左目だけでそちらを見遣る。扉が開かれた所為か、歓声が先ほどよりも鮮明に耳をついた。
「佐久間」
 と、光を背負ったせいで影しか見えない姿が名を呼ぶ。その声には聞き覚えがあった。
「げんだ……?」
 久しぶりに声帯をふるわせたためか、声は掠れて小さく、ひどくかそけきものとして鼓膜をふるわせた。
「こんなとこきたら、おまえも不動に仕置き部屋入れられるぞ」
「……俺は陰間じゃなくてただの二階回しだからな。入れられることはないさ」
 源田は扉の隙間から身体を滑り込ませたあと音を立てないように扉を閉めた。同時に胸元に隠していたのだろう蝋燭に火を点け床にたてた。ぼんやりとした灯りが源田と佐久間の顔を照らし上げる。源田は痛々しげな表情で佐久間を見つめていた。
「茹でた玉子、持ってきたんだ。お前、最近粥も残し気味だろ。栄養つけないと」
「勝手にんなことしやがって……不動に殺されるぞ」
「大丈夫。ばれないようにしてる」