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ストロベリー&ティー

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日本は庭先へ顔を出し、花の世話をしていたイギリスに声をかけた。
「イギリスさん、ご飯できましたよ。食べましょう」
「もうそんな時間か?」
「ちょっと夢中になりすぎじゃないですか」
 日本がそう言ってくすっと笑うと、イギリスもそうだなと笑った。

 テーブルの上には四品の日本料理が並べられていた。
 一品目はお寿司。新鮮な魚と酢をきかせ、綺麗な形に握ってある。港に揚がったばかりだった旬の魚は程よく脂が乗っていて、つやっとしていた。
 二品目の天ぷらは、ノルウェー産のエビと近くの農家から買い取った野菜で作られたものだ。サクッとした薄い衣。大ぶりのエビ。ほくほくと湯気を上げる野菜。全て日本の目利きで買ってきた物だ。
 そして、肉じゃが。今や完全に国民食となった、元イギリスのビーフシチュー。由来はさておき、日本の十八番となっている料理だ。ジャガイモと牛肉、タマネギ、ニンジン、しらたきを入れ、甘辛く味付けされている。
 最後に、イギリスが日本の家で初めて飲んだ時に惚れ込んだ味噌汁。日本はイギリスに気に入った理由を聞いてみたが、本人も首を傾げるばかりだった。

 たった二人の食卓だ、いつもなら主食と主菜と汁物と、くらいしか出さない。
「うわ……今日、何で日本の家の料理なんだ? いっつも材料が手に入りづらいからやりたくないって……」
「今日は張り切りましたから!」
「そうなのか……って、えっ? 今日って特別な日だったのか?」
「えぇ、もちろん」
「も、もちろん?」
「デザートの時にでも、お教えしますよ」
 いただきます、と日本は手を合わせた。
「あ、い、いただききます」
 お前んちの文化には慣れないな……とイギリスは困ったような笑顔を浮かべた。
「食べ物には感謝しろと、そういう教えですよ。『あなたの命を私の命にさせていただきます』を略して『いただきます』と言っているんです」
「あなたの、命を……。へぇ、知らなかった」
「まぁ、諸説あるんですけどね」
 かぷりと日本はカボチャの天ぷらをかじる。
「私の国の食文化は不思議だとよく言われます」
「まぁ、確かにな。タコ食べるし、大豆もたくさん食べるし」
「たこだったらイタリア君もセーシェルさんも食べてますよ。まぁ、大豆は……なくなったら大変なんですよね。お味噌、お醤油、豆腐に納豆……枝豆もおつまみの定番ですし……」
「とりあえず、ナットウはあり得ないと思うんだけどな」
「納豆おいしいですよ!?」
 小さく叫んでから、はっと我に返り恥ずかしそうに笑う日本。
「……それに、私からしてみれば、欧州の方々の食文化も不思議で仕方ないんですけど……。エスカルゴとか、リコリスとか」
「エスカルゴは俺も苦手だな。つーか、髭はゲテモノ食いすぎなんだよ! それと、リコリス、うまいだろ?」
「どうも私の口には合わないみたいです」
「そっか……。ていうか、俺のビーフシチュー……」
 肉じゃがを突っつきながらため息をつくイギリス。
「そろそろ忘れてくれませんか、それ。仕方ないでしょう、デミグラスソースなんて知らなかったんですから」
「けど、うぅ……。これはこれでおいしいのが実力の差を見せつけられたというか……」
「肉じゃがは上司の無茶ぶりが原因ですけど、私の国はどんな食べ物でも食べてみようとする国ですから。他の方々の料理もおいしいものは全て取り込みたいじゃないですか」
「その姿勢の差が実力の差か……はぁ」
「イギリスさんもこのごろどんどん料理の腕が上達していると思いますよ。私の国と似た土壌は持っているんですから、成長の基盤はありそうなんですよね、いくらでも」
「つってもなぁ……」
「昔はフランスさんと暮らしていた時期もあったんでしょう? 何も習わなかったんですか?」
「いや、その、ほとんどあいつが……」
 語尾を濁すイギリスを日本はばさりと切った。
「つまり全部任せきってたんですね」
「ばっ、馬鹿、そんなんじゃ!」
「だったら何なんですか?」
「え、と、それは……。あぁもう、お前会議の時はオブラートに包んだ発言しかしないくせに、何で俺相手だとそんなに辛口になるんだよ!?」
「あなたが相手の時だけは遠慮せず自分が思ったことを何でも言えるから――と言ったら怒ります?」
「あ……その、それは……」
 赤くなってふるふると首を振るイギリス。
「ふふ、かわいらしい」
「え?」
「いいえ、何でもありません。独り言です」
「すごく気になるんだけど、」
「気にしないで下さい。イギリスさん、あーん」
「あ、あーん」
 イギリスがエビの天ぷらを日本の箸から受け取り、うまいと笑顔をこぼした。つられて日本も笑顔になる。
「海産物の目利きなら自信ありますから、私」
「日本ってほんとにすごいよな」
「何がです?」
「まじめで努力家だし、吸収早いし、そのくせ独自の文化が発達してるし……」
「一度も大陸のみなさんから支配を受けなかったからでしょう。イギリスさんはフランスさんの家が目と鼻の先ですし、戦いで領土が増えたり減ったりする頻度も多かったので仕方ないと思います」
「お前のそういう謙虚なとこ、見習わなきゃな……」
 日本はその言葉にふっとほほえみ、箸を置いた。
「ごちそうさまでした」
「やっぱりお前食細すぎないか?」
「日本国民の平均のはずですが」
「元々お前の料理ってカロリーも低めなのに、絶対量も少ないと思う」
「うーん……私からすればあなた方の食事は野菜の量が少ないと思うんですが。魚よりお肉の方が断然多いですし」
「そうか?」
「ミートパイとかフィッシュアンドチップスとか、あればかり食べていると胃がもたれそうになるんですよ、私は」
「ふーん……?」
 首を傾げ、眉根を寄せて考えてみるイギリス。
「小さい頃からこんな食事だったからなぁ。ごちそうさま。じゃあ俺、紅茶入れてくる」
「あ、私もデザートを取りに行かなくては」

 たっぷりとイチゴが乗ったタルト。
 朝に採れたばかりだと言われたイチゴは、まるで宝石かのようにつやつやと輝いていた。それをしっとりとしたタルトの生地が包み込んで、綺麗な円を形成している。
 そのタルトへ、日本は包丁を入れ、きっちりと八等分した。
「これ、えっと、デザートも……豪勢、だな?」
「何で疑問系なんですか。さっきのお魚と海老を買いに、ノルウェーさんの家へ行ってきたんですけど、ちょうど採れたてだっていう苺がたくさん売ってたので、つい。ちょうどいい酸っぱさだったのでタルトにしようかなと思いまして。もっと酸っぱかったら煮詰めてジャムを作っても良かったんですけどね」
「ジャムか。いいな、スコーンにも合うし」
「いいですねぇ。今度スコーンとジャムを作ってみませんか、一緒に」
「い、一緒に?」
「えぇ。何も作らないままでは上達なんて絶対にしませんから。作ってみましょう、ね?」
「あ、あぁ!」
 日本はくすりと笑い、皿に乗せたタルトをイギリスに渡した。
「どうぞ」
 二人の手元ではイギリスが淹れた紅茶が湯気を立てている。
「そう言えば日本、今日って結局何の日だったんだ?」
「あぁ、覚えてたんですね。忘れているかと思ってましたよ」
「日本、無駄な毒舌はいいから……」
作品名:ストロベリー&ティー 作家名:風歌