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片思いと見せかけて

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あの時の笑みよりも優しいような笑みを浮かべる臨也が視界に入る。
「帝人くんってさ、言葉に表さないと気がつかないタイプなんだね」
「え」
「察しが良いのに自分のことになると全くもって気がつかない」
らしいと言えばらしいんだけど、と言われて帝人の眉は八の字になる。
本当に一体彼は何が言いたいのだろう。
「臨也さん・・・?」
「もうさ、こんなまどろっこしい事しないで端から言えば良かったよね」
帝人の問いに答えることなく自己完結をしたらしい臨也に、
帝人はさらに小首をかしげて見せた。
(もう怒っては無いみたいなんだけど・・・)
うんうん、と首を上下に振る臨也がどんな答えを出したのか。
もう一度帝人は臨也の名前を呼んだ。
「臨也さん」
「うん。だから帝人くん。よーく聞いてね」
「あ、・・・はい」
帝人の声には反応が無いくせに、自分の事には従わせようとする臨也に、
若干むかついたはしたが、彼がニコニコと幸せそうに笑っているので、
帝人は苛ついた気持ちを喉奥におしやり、素直に頷いた。
「一回しか言わないから。貴重だよ?もう二度と無いかもしれないからね」
「分かりましたからもったいぶらずに言ってください」
どうしてそんなに引っ張るのだろうと思う。
臨也はにぃっと口角をあげて笑うと、ぐいっと顔を近づけてきた。
「っ」
鼻先と鼻先がくっつきそうな、吐息が直に掛かる距離。
秀麗なその顔に帝人は頬が勝手に赤くなる。
「俺はね、帝人くん」
臨也の言葉が一段と甘く囁く。
「君が好きだよ」
その時、帝人は臨也が何を言ったのか理解できなかった。
臨也の言葉を咀嚼するまでに一拍。
それを嚥下するまでに一拍。
そして脳に到達するまでに一拍。
漸く臨也の言葉の意味を帝人の頭が理解すると、
帝人の青い瞳が驚愕で見開かれる。
「え・・・えぇぇぇぇぇっつ!?」
「えぇぇって、そんな大声出す事?」
「だっだって!!臨也さん一度もそんなことっ」
「言わなかったよ?だって、最初に言ったら俺の負けみたいじゃない?」
「はい?」
帝人は臨也の言っている事がたまに分からなくなる。
好きになったら負けとでも思っているのか、はたまたゲーム感覚なのか。
もしそうだったとしたら帝人は臨也の言葉を受け入れることはできない。
(だってそれってすっごく辛い・・・)
最初はまだ良いかもしれない。お互いの願いが一致しているから。
けれど求めているものが違う以上、与えられるもの与えて欲しい物が段々とずれていくだろう。
そうなったらきっと修復は不可能。別れるしかなくなる。
(そんなの・・・嫌だ・・・)
暗い思考に囚われていると、臨也が呼ぶ声が聞こえてきた。
「帝人くん?」
「あ、えっと」
そのため臨也の呼びかけにすぐ答えることが出来ず、変な間があいてしまった。
「先に行っておくけど俺、ゲームとかそういう風には思ってないから」
微笑まれて告げられた言葉に、内心ひやりと汗を掻く。
「俺のこと疑ってた?」
「えっと・・・その・・・はい」
ここで嘘を吐いても必ず臨也の誘導尋問に引っかかる事は目に見えているので、
素直に頷いておく。
「まぁ、良いけどね。俺の今までの行動からしたらそう思っちゃうのしょーがないし」
「・・・臨也さ、」
「あのね、俺が言いたかったのは、君が俺のことを好きだって自覚する前に、
 俺が好きだって言ったら君、絶対俺のこと振ったんだろうなってこと」
違う?と首をかしげられて帝人は息をのんだ。
そう、もし、もしもだ。
帝人自身が臨也に持つ感情が好意だと気がつかなかったら。
そんなときに臨也から告白されていたら、
きっと自分はこのマンションに寄りつかないどころか、
臨也の目の前から消えるように努力したに違いない。
(静雄さんとかに頼んで・・・)
だから臨也は待ったというのだろうか。
甘やかせるところは甘やかして、帝人が自覚するまで堕ちてくるまで。
「で、今回のは余りにも君が無自覚発言したからつい・・・ね、八つ当たりしちゃった。
 本当にごめん・・・」
「臨也さん・・・」
「でも、良かったなぁ。帝人くんが俺の気持ち気持ち悪がらないでいてくれて」
「そんなことっ!」
無い、と言おうとした帝人の唇に臨也の長くて白い人差し指が乗せられる。
「男が男に恋愛感情持ってるなんて普通は引くよ」
だから君も言えなかったんだろう?と言われた瞬間、
帝人は視線を臨也から外した。
(確かにそうだった・・・)
自分が臨也に気持ちを伝えられない大きな理由がそれだ。
「あ、そうだ」
急に何か思いついたように声を上げた臨也に帝人はまた視線を戻す。
臨也は帝人の唇から指を外すと、そのままその手を帝人の頬に当てた。
近づいてくる美貌の顔。帝人の瞳一杯に臨也の顔が映る。
「まだ返事もらってないや。ねぇ、帝人くん?」
「なっ」
「言ってよ。俺は君の口から君の言葉で聞きたい」
羞恥で顔が火照るのが帝人にも分かるように、
視覚でも触覚でも帝人が赤く熱くなっているのが臨也にも分かるだろう。
唇がわなわなと震え、口を開けても声がなかなか出ない。
しかも目の前には今か今かと期待して待っている臨也がいる。
帝人は八方ふさがり!と思いながらぎゅっと瞳を閉じた。
(こうなればやけくその域だっ・・・!)
そして意を決して、ようやく帝人は声を出す。
「僕も臨也さんが、好きですよ」


作品名:片思いと見せかけて 作家名:霜月(しー)