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エンジェル参戦

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肩を越える、長い、光り輝く髪。
荘厳な廊下を堂々と歩く、その身にまとっているのは彼の特注品である服だ。
「エンジェル」
隣にすっと寄ってきた四十過ぎぐらいの男が呼びかけてきた。
「特に異常はありません」
男は黒いコートの胸ポケットに階級証を差している。
「聖騎士で、最強のあなたの手をお借りしなければならないようなことは、なにも」
上一級祓魔師である男はそう報告した。
すると。
「そうか」
アーサー・O・エンジェルは快晴の空のように明るく笑う。
「ならば良し」
その返事に対し、アーサーより年上の男は神妙な面持ちで頭を下げた。
アーサーは少しのあいだ男を見ていたが、サッと眼を進む先へと向ける。
重厚な扉がある。
それを、アーサーは開けた。
扉の向こうには部屋がある。広い部屋だ。四階分がぶち抜きになっている高い天井には豪華なシャンデリアがつり下げられている。
サン・ピエロパオロ大聖堂の地下にある正十字騎士團ヴァチカン本部の講堂である。
アーサーは歩く。
今いるのはバルコニーのような場所であり、手すりの向こうは空間で、その下には大勢の祓魔師がいる。
彼らはアーサーを待っているのだ。
アーサーは祓魔師の頂点に立つ、聖騎士である。
最強と、さっきの男も言っていた。
だが。
耳によみがえる。
『ああ、たしかに、おまえは最強じゃねーよ……!』
荒っぽい言葉遣いの女性の声。
脳裏にそのときの光景が浮かんだ。
振り返ってアーサーを見た、その顔は血で汚れていた。
その手には魔剣があった。
アーサーは傷を負って座っていたが、彼女はアーサー以上の傷を負いながら立っていた。
あのとき、アーサーは絶望の中にいた。
祓魔師の名門の家に生まれ、才にも恵まれて、まわりから期待され、それに充分応えられる自信もあった。
自分は最強だと信じていた。
しかし、あのとき、強い敵のまえで膝を屈した。その強さに圧倒された。
勝てないと感じた。自分は強くないのだと思い知らされた。
その瞬間、心がくだけた。
立ち上がれないほどの傷を負ったわけではないのに、立ち上がれなくなった。
敵が襲いかかってきたが、動かずにいた。
そんなときに、彼女が助けに来た。
彼女は強敵を相手に懸命に戦った。けれども、勝てそうになかった。深い傷も負った。
このままでは彼女は死ぬかもしれない、そうアーサーは感じ、自分を置いて逃げるよう勧めた。自分は最強でないのなら生きている意味がないから、もう死んでもいいのだと言った。
すると、彼女はあの台詞を口にし、アーサーを振り返ったのだった。
その大きな眼は、黒く、強かった。
『だが、いつか最強になるんだろ!?』
そう怒鳴ると、彼女はアーサーに向けていた顔を敵へと向けた。そして、また、襲いかかってくる敵に立ち向かっていった。
アーサーを守るために、戦っていた。
いつだってそうだ。彼女はだれかを守るために戦う。
彼女は、今、このヴァチカンにはいない。
日本にいる。
上級監察官として、日本で、サタンの息子である双子を監察している。
いや、サタンの炎を受け継いだ兄のほうに魔剣を教えている。
そして、サタンの炎を受け継がなかった常人の弟のほうと恋人関係にある。
アーサーは手すりの近くで立ち止まった。
シュラ。
胸のうちで、呼びかける。
今のオレは最強だ。
そう思ったあと、アーサーは手すりの向こうを見おろした。
大勢の祓魔師に対し、臆することは一切なく、その彫りの深い端正な顔に笑みを浮かべた。








作品名:エンジェル参戦 作家名:hujio